プロメテウスシング 1話

[*]

1999年7月 東京某所

change:背景(“街・夜”)

帰路につく人々でにぎわう街。

一人の男が、家電販売店のディスプレイウィンドウに目をやる。

厚みのある液晶テレビ。

その電源が突然付いた。

[名もなき通行人]

ん?

何だこれ?

[*]

『影獣襲来! 東京壊滅の危機』

[アナウンス]

みなさ〜ん! 影獣がやってきますよ!

心の準備はよろしいですか〜!

アナウンスとともに、放送スピーカーやラジオから轟音のサイレンが鳴る

[焦る男]

おい、何だよこれ!

ラジオもテレビも全部おかしくなってるぞ!?

[直せる男]

駄目だ、全然切り替わらねぇ!

これ一体どうなってんだ?

[指差す女]

ちょっとアンタたち見て!

海の方から……何か……

大きな”影”が……

女性が指さした先では、東京湾から真っ黒な獣が、陸地に乗り上げようとしていた。

[焦る男]

あれは――怪獣!?

巨大な影は山のごとき大きさであり、ビルが小さく見えるほどだ。

[指差す女]

こ、こっちに向かってくるわよ!?

[直せる男]

……逃げるぞ! 車を出すんだ!

急げ!

黒い影はゴジラのごとく二足で立ち、都心へまっすぐ歩き始める。

change:背景(“渋滞・夜”)

首都高に重い足音が響く。背後にはすでに影獣が迫っていた

[自動車の男]

クソッこんな時に渋滞かよ!

早く動けッ動けよ!

[自動車の男]

もうこんな近くに……!

い、嫌だ、まだ死にたくない!

嫌だ嫌だっ! 踏まないでくれ!

影獣に踏みつぶされる車。

[自動車の男]

ひっ……うわああああああああ!

あああああああああ……あ?

あれ? 何ともない?

自動車の男は、影獣が過ぎ去った跡を見る。

[自動車の男]

どうなってんだ?

……。

[自動車の男]

な……なにコレ……。

ありえねぇ……。

目前に広がっていたのはピンクの空。

ビルが茸になり、戦闘機は飛び交い、顔のない紳士たちが踊り狂う、異常な世界だった。

ピンクの空はまるで白紙に色水を垂らすかのように東京に広がり侵食していく。

[自衛隊]

不明巨大生体、霞が関エリアに接近中!

生体より放たれる霧により一帯を観測『できません』!

被害状況未だ不明!

[自衛隊]

砲弾、怪獣の表皮に命中しましたが弾着確認できません。

レーダー反応なし、位置特定不可。

目視での観測も並行します!

[自衛隊]

生物である以上、必ずどこかに弱点があるはずだ。

国民の命は我々にかかっている!

何としてもこの局面を打破するのだ!

change:背景 オフィス・夜

[怪しい男]

――フフフ。ようやく来たのか。

やはりノストラダムスの大予言に間違いは無かった。

[怪しい男]

2000年を迎える前に世を終わらせんと”恐怖の大公”が来た。

ならば滅びを甘受するのみ。

さあ、終焉の獣よ……

[夜勤漬けの男]

弊社を木っ端微塵にするがいい!

ハーッハッハッハッハ!

オフィスの窓からは、街を進みゆく影獣の姿がよく見えた。

change:背景デパートの屋上・夜

[ブルー]

何をやってるんだお前は!

どうせ明日のイベントショーは中止だろう!

早く避難しないと巻き込まれるぞ!

[レッド]

どうせ明日もないんだ。俺はここに残る。

あの影獣には貴重な大イベントをぶち壊された恨みがあるんでな。

[ブルーの中の人]

俺らは一般人だろうが!

あの怪獣を見ればわかる、何もできっこ無いんだ。

ヒーロー気取りはやめろ!

[アナウンス]

あれあれ~?

子どもたちのヒーローが逃げるんですか?

レッドさんは戦うのに。

振り返れば、ステージの隅で古ぼけたラジオ付きスピーカーが動いていた。

[ブルーの中の人]

お前がコイツをけしかけたのか?

どういうつもりだ!

[アナウンス]

ヒーローショーには主役が必要なんですよ?

早く倒さないと皆死んじゃいますよ〜!

クスクス……。

[レッドの中の人]

……俺は逃げん。俺に何ができるかわからない。

コイツは俺が無様に抗うのを見て、

嘲笑うつもりなのかもしれん。

[ブルーの中の人]

そこまで分かっていながら、なぜ?

[レッドの中の人]

だが――だが!何かが変わるかもしれないのに、

逃げ出すなんて真似は俺にはできん!

どのみち終わるなら、戦ったほうが遥かにマシだ!

[レッドの中の人]

ヤツに普通の兵器は効かないらしい。

だがこれがこう言うのなら、

”ヒーロー”の攻撃だけは通じるのかもしれん。

[レッドの中の人]

やってみる価値はあるはずだ。

俺はやる。

[ブルーの中の人]

……馬鹿な真似を…………。

デパートの屋上に影獣が近づいてくる。凄まじい強風が屋上をさらった。

[ブルーの中の人]

うっ風が……。

――!?

影獣が屋上を覗き込んでいる。大きな二対の目が彼らを捉え、巨木のような腕を伸ばそうとしていた。

[ブルーの中の人]

あっ……あっ……

ああああああ……!

腰の抜けたブルーを横切り、レッドが前に出る。

[レッドの中の人]

ははは、ほんとにでかいな……。

よう、デカブツ。

[レッドの中の人]

この世は俺のもんだって面してるお前に、

世界のルールを一つ教えてやる。

[影獣]

……?

[レッドの中の人]

テメェみたいな悪者は――

正義のヒーローにぶっ飛ばされるのが「お約束」なんだよ!

[影獣]

……!?

[レッドの中の人]

くらえ、俺の……

渾身の一撃!

影獣の腕に向けてレッドがパンチを放つ。

とても威力は無さそうな腰の抜けた一撃は――影獣の腕を砕いた。

[アナウンス]

……は?

うそ、でしょ?

影獣の体にひびが入ると、一瞬のうちに粉々になり、ピンクの空が水が引くかのように消えていく。
元通りになった東京。摩天楼が朝の光を受けて輝いていた。

ange:背景(“テレビノイズ”)


] 99年、ノストラダムスの大予言が成就しかねなかった夜!
類は初めて’’正式に’’特異と出会う。
獣はオカルトの実在とともに社会を激変させた!


] 大特異’’影獣’’が現れた影響により霊、妖、都市伝説――
測外の力場から生じる現象「特異」が
知の上皮を得て急速に増加し始める。


] 異は存在を支えるルールを満たすことでしか無に帰せない。
策のため特異災害対策庁が設立された。


] 異の分析をするうちに特異災害対策庁は思いつく。 を以て毒を制す。
異には特異をぶつけよう。


] しくも、日本で最も多い特異は特撮番組の敵がごとき怪人だ。
うして無敵の怪人に戦いの場を与える者たち、 遊士が生まれる。


] 異の衣をまとう彼らを、人はこう呼んだ。 「ヒーロー」と!


change:背景(“街・昼’’)

[*]

2023年7月 東京某所

一人の男が、人でごった返す交差点の上に立っている。

[不思議な男]

さーて、会いに行きますか。

[不思議な男]

すべてのキッカケになったヒーロー、レッド。

‘’始まりのヒーロー’’ってヤツに!

] ロメテウスシング


change:背景(“昼・路地裏”)

[悲鳴]

うわああああああああああああ!!!

[怪人]

くっくっく!

トリプルシャイン、貴様らの力はこの程度エビか!?

その程度の攻撃じゃこのバリアは壊せないエビ!

土煙とともに安そうなヒーロースーツをまとった3人組が吹きとばされる

[シャインレッド]

な、なんてヤツだ!

俺たちの必殺技「ザツニボンバー」が防がれるなんて!

[シャインブルー]

クソッここまでかよ!

やっぱり、やっぱり――

[シャインブルー]

やっぱり僕らにはまだ怪人退治は早かったって!

だから言ったじゃん! もう止めよう、救援呼ぼう!

[シャインピンク]

ハァ!? あんたがやってみようって言ったんでしょ!

ここで背を向けてどーすんの?

私らだけでやれるチャンス、滅多にないんだよ!?

[怪人]

お、おーい、トリプルシャイン?

さっきから何のんきに話してるエビ?

[シャインレッド]

ここはもう大人しく逃げないか?

無理して減点されたら意味ないぞ。

[シャインピンク]

ま、仕方ないか。

ブルー! 撤退! さっさと来て!

[シャインブルー]

わっわぁ、待って!

置いてかないでー!

安そうなヒーロースーツをまとった3人組が逃げ出す。

[怪人ブラックシュプリング]

こ、こらっー! 貴様ら、何逃げてるエビ!

ヒーローなら背を向けずに戦えエビ!

[シャインピンク]

でもさ、さすがに初戦で逃げましただと心象悪すぎない?

どう申し開きすんのさ?

[シャインレッド]

そこはもう甘く見てましたと説明するしかないだろ~。

教本通りに早めの救援判断しましたってな。

言い方をオブラートに包んでおけばなんとかなる!

[怪人]

くそう、世の中舐めくさりおって! もう許さんエビ!

トリプルシャインよ、ここが貴様らの地獄の二丁目!

この濃厚ビスクシザーで八つ裂きにしてやるエビー!

[シャインブルー]

うわあっアイツ加速したぁ!

どどどとうするんだよ二人とも!

[シャインピンク]

げぇっ、思ってたよりはや……

――!?

シャインピンクの肌すれすれを衝撃波が横切った。

[怪人]

ハーッハッハッハ!

ハサミエビ科ピストルシュリンプはハサミで衝撃波を発生させる!

キサマらは無学さの報いに死ぬエビー!

[シャインレッド]

知らね~よそんな海老!

このままじゃ俺らの一張羅がー!

[シャインブルー]

こ、この状態でまっさきに心配するのが服なの?

他のことから気にしない!? 命とか!

[シャインレッド]

当たり前だろ!

だってこいつ――

逃げていく彼らの目の前に、一人の男が立っていた。

[不思議な男]

へぇ、ずいぶん賑やかだと思ったら。

楽しそうなことやってんな?

[シャインピンク]

えっ……ひ、人?

[シャインレッド]

ちょっと君!

危ないから早く逃げなさい!

すぐに怪人が来るぞ! 原因は全然わからないけど!

[不思議な男]

あんたらのほうがよっぽど危なそうだろ……。

ここは助けてやるから、大人しくしてな!

男はペン型の機器を取り出しくるりと一回転させた。

[シャインブルー]

あれ、もしかして”アタッシュ”?

なーんだ同業か!

さっさと言ってくれよ〜!

[不思議な男]

こうだっけか?

変身〈アクタライズ〉!

男がペンで空間を切り、空間の輪をくぐると特撮ヒーローのような姿に変わる

[不思議な男]

ほら、かかってこいよエビ野郎!

ヒーローごっこと洒落込もうじゃねぇか!

[怪人]

ほう、激厚濃厚ビスクシザーを前にして宣うその胆力。

気に入ったぁ! まずは貴様から海の養分にしてやるエビ!

フランスアタックをくらえっー!

ハサミとタックルのコンビネーション攻撃が来るがかわす

[怪人]

なあっ! こ、この無敗を誇るフランスアタックを破るだと!?

出すのはこれが初めてエビが!

[不思議な男]

もっと肩の力抜いときな。

よっと。

男が武器を出現させると、思いっきりバリアに打ちつけた。

衝撃で後ずさる怪人。

[怪人]

おおおおっ!? なんという剛力エビ!

クックック……しかしまだバリアは健在。

ぬかったな、もう同じ攻撃はできはすまい!

[不思議な男]

もういっちょ!

衝撃で後ずさる怪人。

[怪人]

ぐうううう!

フフフ、なけなしの力を振るったエビね。

この程度じゃまだまだ壊れないエビ!

[不思議な男]

てりゃっ。おりゃっ。そーりゃっ。

バリアに何度も何度も、ガンガンガンと打ちつけまくっている……。

[怪人]

……あ、あの? ちょっと待つエビ!?

そんな勢いで殴られまくったら、

さすがにバリアが壊れ――!

[不思議な男]

頃合いか。

これが終いのフルスイング、だっ!

最後の一撃、思いっきり振るわれた武器によってバリアもろとも怪人がふっ飛ばされる

[怪人]

おわああああああああ!?

[怪人]

こ、こんなの……人間業じゃないエビィィィィ!!!!

バリアの破壊とともに盛大に爆発する怪人、一瞬空間が歪むもすぐに元に戻る。

[不思議な男]

ま、ざっとこんなもんか。

怪我は無いか?

変身解除した3人が近付いてくる

[シャインレッド]

おお、あの怪人をいともあっさり……。

これでお叱りが回避でき――

じゃなかった、あんた強いんだな! ありがとう!

[シャインブルー]

もしかしてお兄さん結構有名なヒーロー?

とりあえずサイン貰っていい!?

[シャインピンク]

…………いやめっちゃ助かったんだけどさ。

一つ聞いていい?

[シャインブルー]

ピ、ピンク?

ここはまず素直に感謝するところだよ?

機嫌を損ねたら告げ口されるかもしれないし――

[シャインピンク]

なんであんた、ギターで怪人で殴ってんの?

使い方おかしくない?

[不思議な男]

ああ? 何だよ?

これ殴って使うもんじゃないのか?

[シャインブルー]

そりゃそういう形の武器ってだけで――

ってギターを知らないの?

[不思議な男]

それどころか、このペンみてぇなヤツもよくわからねぇんだよ。

いわゆる記憶喪失ってヤツ?

どうすればいいのかは知ってるけどな。

[シャインレッド]

マ、マジか……。現実にあるんだなそんなこと。

あー、そのペンみたいなのはアタッシュって呼ばれてる。

衛遊士だけ所持できる変身するのに使うやつだ。

[シャインブルー]

だからお兄さんが衛遊士なのは間違いないよ。

記憶があいまいなの特異のせいかもしれないし、

病院行ったほうがいいんじゃない?

[不思議な男]

あーわりぃな、その前にやらなきゃいけないことがあんだ。

それだけははっきり覚えててさ。

[不思議な男]

追いかけてるものがあるんだ。

“始まりのヒーロー”って知らないか?

[シャインレッド]

“始まりのヒーロー”?

最初の衛遊士ならさすがにわかるが、

そっちじゃないんだな?

[不思議な男]

ああそうだ。始まりだ。

怪人とヒーロー、その原点を知りたいんだ。

[シャインブルー]

ふーん。あ、だったらエテ公前に行ったらどうかな?

今地方ヒーローフェアやってるから、

詳しい人がごろごろいるんじゃない?

[不思議な男]

ヒーローフェアか。そっち行ってみるとするか。

じゃあな、もう無理すんなよ!

[シャインピンク]

――待って!

[シャインレッド]

な、なんだなんだ、大声出して。

この人のこと何か知ってるのか?

[シャインピンク]

あんたの、名前を聞かせて。

[不思議な男]

俺? ああ……そういや名前は覚えてた。

俺の名は――”SONICMAN”だ。

去っていく男。その後ろ姿を見送る3人。

[シャインレッド]

それヒーロー名だろ、あながち間違いでもないけどさ。

というかピンク。さっきからどうしたんだ?

顔青いし全然らしくないぞ。

[シャインピンク]

……あんた、知らないの?

今ネットで噂になってる人型特異のこと。

[シャインピンク]

悔恨の亡霊、SONICMAN。

その割には生き生きとしすぎだけど、

でもまさか、そんなことは、ね。

[シャインレッド]

ははは! 何を言ってるんだ。

どう考えてもあの人は生きてただろ!

はははは! はは。 ……はははは…………。

[シャインレッド]

こ………こえ〜………。

離れたところにいるブルー。

[シャインブルー]

二人ともひそひそ何話してるんだろ?

――ん?

なんだこれ、卵の殻?

何者かが、何かでブルーの手から殻を奪う

[シャインブルー]

わっわっわー!!

二人とも、やばいよ大変だよ!

妖怪卵取りが出たーーーー!

ビルの上に立っていた何者かが卵の殻を手にする

[忍者]

……やっと、見つけた。

顔を隠した謎の忍者がSONICMANと名乗った男のあとを追いかける

change:背景(“会見”)

[みすぼらしい男]

いいですか皆さん!

怪人とはこの世あらざるものが現実空間に具現したもの、

その本質はかの巨大特異影獣と同じなのです!

[みすぼらしい男]

騙されてはなりません!

奴らは世界の敵!我々を虎視眈々と狙っています!

ヒーローも国も、みな踊らされているのだっダダッダッダ

[みすぼらしい男]

ヒーローも国もおどらーらっら――

背景 だんぶち公園 忠猿エテ公前

[ときめく女子高生]

ミズキ〜何みてんの〜?

[わくわく女子高生]

ん〜? 今流行りの会見音MAD。

[ときめく女子高生]

めちゃバズしてるやつじゃん。ウケる。

ざわめく聴衆、人だかりができている。

[かわいいMC]

それでは本日の特別イベント、

「キヌガワン触れ合いタイム」に移ります!

[キヌガワン]

俺の自慢のもっふり犬耳とふかふか尻尾――

ぜひ触っていってくれ!

[ときめく女子高生]

ミズキ〜キヌガワン触んねぇの?

[わくわく女子高生]

は? 無名ヒーローとか知らんし。

リベ様呼んでこいよ。

[キヌガワン]

しゅ、しゅん……。


大型モニターにはヒーローへのインタビューが流されている

[インタビュワー]

――辛いと感じたことはありませんか?

[リベリオン様]

そうだね、強力な怪人が出たときや、

身一つではどうにもならないことがあったとき、

打ちのめされることもある。

[リベリオン]

けれど私は一人じゃない。頼れる仲間がいる。

私を応援してくれる人々がいる。

声が止まない限り、ヒーローに敗北はありえないよ。


[ときめく女子高生]

あいっかわらずスケコマシ野郎だな〜

あんなんがいいの?

ワザとらしすぎね?

[わくわく女子高生]

バッカだな。なんちゃって王子感がいいんだよ。

ヒーローなんてテキトーなぐらいがちょうどいいんだし。

[SONICMAN]

テキトー感!なるほどな。

俺も前もっと開けたらモテるか?

[ときめく女子高生]

兄さんイケメンだからイケるっしょ。

って誰? ナンパか〜?

[SONICMAN]

半分ナンパ、半分……情報収集?

俺、ヒーローやってんだ。

我が身一つでアンケート中ってとこだ。

[わくわく女子高生]

参加者ねなる〜。

つかサボっていいん? 休憩中?

[SONICMAN]

そんな感じ。ちょーっと聞いてもいいか?

今人探してんだよ。始まりのヒーローってやつ。

お嬢さん方、なんか知らない?

[ときめく女子高生]

お嬢さんとか草。

え〜始まり? 初ヒーローって衛遊署にいるやつじゃん?

[わくわく女子高生]

んなもん言わずんもがなずんでしょ。

コラボ相手探しじゃねぇんだぞ。

コレじゃね?

女子高生がスマホで動画を見せる。

[みすぼらしい男]

このままではこの美しい国、日本が失われてしまう。

影獣のような特異はいずれやってくる。

皆さん、ヒーローごっこをしている場合なのですか?

[ときめく女子高生]

会見マンじゃーん!

え、コイツヒーローなん?

[わくわく女子高生]

無免。でも影獣倒したとか言ってんのこいつだけ。

ちなこれSNS垢、住所フルオープンしてる。

[ときめく女子高生]

情弱じゃん。マジ草。

[SONICMAN]

へえ。確かに俺が探してんのと近そうだ。

サンキュ、おかげで助かった!

これ報酬。じゃあな〜。

颯爽と男は去っていく。

[ときめく女子高生]

おっ飴ちゃんじゃ〜ん!

って、ナンパじゃねぇの?マジがっかりすわ。

飴とかまじしけてるし。

[わくわく女子高生]

手のひらドリルだ〜。

てかアレでよかったんか?

[ときめく女子高生]

いんじゃね?

事務所に脅迫文でも届いたんしょ。

あのオッサン目ヤバかったし。

[???]

すまない、そこの方――。

[ときめく女子高生]

ああん?

女子校生ズが振り返ると、そこには忍者がいた。

[忍者]

さっき若い男が来なかったか?

……ツレが人混みではぐれてしまってな。

もし見かけていたら教えてほしいんだが――

[ときめく女子高生]

なあなあ、あんたヒーローでしょでしょ!

顔見せてよ〜さっき被ナンパ失敗してさ~

イケメンならウチらナンパしてちょ!

[忍者]

え。ええ…?

[わくわく女子高生]

困惑してて草。

つかこの人顔出しNGなんじゃね。

でもイケメンなら前言撤回、君脱ぎたまえ。

[忍者]

(……さ、最近の若い子って皆こんな感じなのか?)

[ときめく女子高生]

まーどうせさっきのナンパ野郎っしょ。

あっちの大通りいったぜ。

[わくわく女子高生]

なんか住所睨んでたから家に凸っちゃったかもね〜

近所だし。

早くブースに連れ戻したほうがよいぞ。

[忍者]

あ、ありがとう。恩に着る!

忍者もまた去っていった。

[ときめく女子高生]

足はえーな。飛脚じゃん。

[わくわく女子高生]

おっ次、タイトウクンの出番だ。

パンダでウケを取ろうとしてダダ滑りしたやつだ。

見よ〜。

[ときめく女子高生]

ミズキまじでヒーロー好きすぎ。

ウケる。


change:背景(“会見”)

[みすぼらしい男]

怪人は息を吸うように世界を作り変えていく――

居るだけで非観測空間を広げ、いずれ民衆を飲み込むのです。

この敵を許してもいいのか!

[みすぼらしい男]

奴らの真の狙いは、我が国を非観測空間に沈めること!

今こそ世界を歪める敵を消すためうごっうごっうごっ

正常な日本日本せかいセーカーイ――

change:背景(“部屋”)

[みすぼらしい男]

クソっ!

またしてもコケにして……!

男が、部屋のノートパソコンで自分の会見の音MADを見ている

[みすぼらしい男]

なぜだ!? なぜ誰も分かってくれないんだ!?

どうして誰もおかしいと思わないんだ!

いなくなった人たちのこと――

[みすぼらしい男]

クソっ! クソっ!

どうしてどうしてどうして……!

[女]

あらあら、荒れてるね。

大丈夫? しっかりしなよ。

部屋の全面鏡に、美しい女の姿が映る

[鏡の中の女]

無知蒙昧どもの悪ふざけは苛立たしいものだね。

しかし期待しちゃダメだ。本物のヒーローは日陰者だろ?

そう、真実を追う者の背には常に茨が刺さっているものなんだ。

[みすぼらしい男]

……。

[鏡の中の女]

世界が歪んでいるのなら、キミがもう一度正さなきゃ。

正義が勝つ世にしなくっちゃ。

偽りを剥ぎ、キミが真実を示すんだ。

[鏡の中の女]

さあ。今こそキミが動くときだ。

――この殻を取って?

[みすぼらしい男]

……。

………………。


背景 住宅街

一軒の家の前でSONICMANがひたすらチャイムを鳴らしている。

[SONICMAN]

おーい。誰かいないのかー?

出かけてんのか? 弱ったな。

時間がないってのに。

[SONICMAN]

――ん? 何の時間がないんだ?

大切なことがあったはずなのに、

なかなか思い出せねえな……。

[おばあちゃん]

あらぁ、お客さんかい?

[おばあちゃん]

珍しいねえ、テレビ局じゃないのが来るなんて。

ここの人に会いに来たんかい?

[SONICMAN]

おっ。そうなんだよ、すっげぇ困っててさ。

今どこにいるかばあちゃん知ってるか?

[おばあちゃん]

それなら、この先の特衛センターじゃないかねぇ。

日課のランニングで走ってるからね。

いっつもベンチでぐったりしてるんだ。

[SONICMAN]

なるほど、そこに行けばやっと会えそうだな。

ばあちゃん、体大事にしろよ!

SONICMANは全速力で駆けていった。

[おばあちゃん]

あらあら、元気ねぇ。

あら?

おばあちゃんが何かの欠片を拾う。

[おばあちゃん]

これ、なんの欠片かしら。

タマゴの殻?

[おばあちゃん]

あらま、粉々になっちゃったわ。

手を洗わないと。

[忍者]

………。

あとからやってきた忍者は立ち止まるが、またSONICMANを追いかける。

[おばあちゃん]

あらま! すっごい風。

いやねぇ、雨が降らないといいけど。


change:背景(“公園”)

特衛センター前のミニ公園

[幹事]

それではみなさん、全員合格を祈ってぇ〜!

――乾杯!

[中の人ども]

かんぱーい!

[幹事]

ウオッーっ!昼から飲むビール最高!

この一杯のために生きてるっ!

[酔いどれな人]

うっひひひひっひひひ!

死ぬほどゴクゴク言ってる〜

ゴクゴク〜ゴクゴク〜!

[普通な人]

……お前ら。そんな調子で本当に大丈夫か?

まだ研修終わっただけからな?

酔って暴れたりしたら受験資格無くすからな!?

[幹事な中の人]

わあってるわあってる!

でもなあ、ついにここまで来たんだ!

長きに渡る下っ端ライフもこれで終わり!

[幹事な中の人]

特異処理士になれば特級怪人も相手できる!

食い扶持2倍、仕事も2倍!

[酔いどれな中の人]

ギャハハハ!!

酒の量もにば〜い!

イエーイ!イェイイエーイ!

[中の人ども]

イェイイエーイ!

[普通な人]

(こいつら筆記大丈夫かな……)

[川柳な中の人]

――酒足りぬ

本気で足りぬ

マジ足りぬ

[普通な人]

試験はどうせまだ先なんだ、

今日だけは好きに飲ませよう。

どうせ明日苦しむのはこいつらだ。

[川柳な中の人]

――詠み人、買い足す院。

[普通な人]

(ヒーローってどうしてこうも変なヤツばっかりなんだ……)

[コウモリ怪人]

おい、キサマら!!

[普通な人]

ん?

上空からコウモリの姿をした怪人が降りてくる。

[コウモリ怪人]

さっきから音がうるさいのだ!!

こーんな真昼間から汚い音楽を鳴らしおって……。

近所迷惑だぞ!恥を知れ恥を!

[普通な人]

あっすみません……って怪人だー!?

おい、おいおいヒーロー! 怪人だぞヒーローおい!

[酔いどれな中の人]

んひっひひなひひ!

ごもっともだ~!

正義のヒーローが怪人に説教されちゃった〜!

[普通な人]

わ、笑いごとか!

怪人が来てんだぞ? これ大丈夫なのか!?

[酔いどれな中の人]

んにゃ〜このぐらいはほっといて大丈夫〜。

これ口だけのタイプ〜。

狩りすぎはよくない〜若手のためにもならん〜。

[普通な人]

そんなもんなのか?

ならいいんだが……。

[コウモリ怪人]

いいわけあるか!!

はーやーく、このやかましい音を消すのだ!

さもなくばこの怪音波で全てを破壊するーッ!

[普通な人]

わわ、わかったわかったわかった!

おい誰だよ爆音BGMしてるやつ!

誰のスマホ鳴ってんだ!

[幹事な中の人]

アァん? このロックを理解できねぇってか!?

地下バンから流星のごとく現れた「奏で」がわかんねぇってのか!

おらっ聞けっ聞けば「心」で理解できんだよ!!

[普通な人]

お前かよぉ! すっかり出来上がってるし!

もう早くスマホ止めろ!

アイツが暴れるし暴れなくても近所の人が来る!

[幹事な中の人]

止まれねぇよ!

SONICMAN様の「魂」を伝えなければ――

ふらっとした足取りで、みすぼらしい男が公園の入口に現れる

[みすぼらしい男]

………。

[普通な人]

あっー! すすすすすみませんすみません!

今すぐ音を消させますんでー!!

[酔いどれな中の人]

ん? あれぇ〜いつものオッサンだ!

んひひっ、この人ならだいじょーぶだ〜。

こういうの好きだもん。一杯どぉ〜?

[普通な人]

ホッ。なんだ、知り合いなのか。

てっきり近所の人かと……。

[酔いどれな中の人]

ん〜ん、この人近所〜!

ひひっ我らは昼飲み同盟なんだ~。

そりゃもーだらしなく昼からグビグビ、グビグビと!

[普通な人]

駄目じゃん!

いやこの場においてはギリ駄目じゃないが!

[みすぼらしい男]

……お前らは。

[酔いどれな中の人]

ん? オッサンどったの?

テンション低くない?

ぽんぽん痛いか?

[みすぼらしい男]

……お前らみたいなのがいるから。

みずぼらしい男は、懐から謎の欠片――卵の欠片を取り出した。

卵の欠片は空を飛びコウモリ怪人に突き刺さる。

[コウモリ怪人]

――ガッ!?

ム、なんなのだこれは!

無駄に痛……いた、いた、いた……。

[コウモリ怪人]

いた、いた、いぎっ……。

あぎっ。ぐぎゃっ。

[コウモリ怪人だったもの]

うぎぃっア……あアアあああ……

アアアアアア!!

コウモリ怪人の体がべきべきと真っ二つに割れ、巨大なマイクが突き出る。

そのままコウモリ怪人の抜け殻を翼代わりにして空へ飛び立った。

[普通な人]

えっ。な、何だあれ。

あれも、怪人なら普通のことか?

怪人ってあんなのになるのか?

[酔いどれな中の人]

――あはは~、なるわけないじゃん。

イレギュラーって感じかも。

ちょっと下がってたほうがいいかな。

[幹事な中の人]

あーあ、せっかく気持ちよくなってたのに……。

ま、臨時のお仕事といきますか。

”未知の特異に出会ったら、時間稼ぎして救援を待つ!”

[幹事な中の人]

というわけで、あんたは一般人を連れて退避退避!

時間稼ぎなら俺ら2人のほうが楽だからな。

アイツの気を引いてるうちに救援呼んどいてくれ!

[幹事な中の人]

ま、こういうときの対処も試験範囲だ。

研修と似たようなもんだよ。

ここはヒーローに任せときな!

[普通な人]

わ、わかった。

でも危なくなったら逃げろよな!

[幹事な中の人]

お前らもな!

このわけわからんのは俺らで十分だ!

空いてる手でこいつら見といてやってくれ!

[未熟な中の人ども]

は、は~い!

[幹事な中の人]

(――“暴走怪人”の噂。まさかマジだったとはな)

暴走怪人がいる場所の空が、ゆっくり桃色に変わっていく。

[酔いどれな中の人]

“ピンクの空”かあ。

あんまり見たくないのが来ちゃったぜい。

ありゃ、3ヵ月ぐらい前倒し〜?

[幹事な中の人]

深化した特異は現実への干渉能力を持ってる。

気をつけろよ。

[みすぼらしい男]

ぶつぶつ……ぶつぶつ……。

[酔いどれな中の人]

オッサンはどうする?

なーんかやってたし様子変だし、

抑えといたほうがいいかぁ?

[幹事な中の人]

やめとけ。

深化の原因かもしれんし迂闊に触れないほうがいい。

専門家に引き継ぐまでノータッチだ、いいな?

[酔いどれな中の人]

そっかあ。わかった。

[酔いどれな中の人]

(オッサン……何があったかは知らんけどさ。

もうちょっとだけ待ってなよ)

[コウモリ怪人だったもの]

ギィイィィイイイ!

[幹事な中の人]

ヤツが興奮してきたな。

よし、いくぞ! 変身!

ロボットのような見た目のヒーローと、ホラー映画の花嫁亡霊のような姿のヒーローが現れる。

[リィンベル]

酔っ払いみたいにふらふら飛んでるから~。

頭からいけば余裕で落とせるっしょ!

[エルスマン]

お、おいこら!

息合わせろやボケ!

リィンベルが木々をばねにコウモリ怪人だったものに躍りかかる。

[コウモリ怪人だったもの]

ガッ!?

……オオオォォオオ……。

[エルスマン]

これでも食らいな!

[コウモリ怪人だったもの]

? ア、アアアアアァァァァ!?

エルスマンの放った弾が翼にまとわりつき、暴走怪人を地に墜とした。

暴れ回るも身動きできていない。

[エルスマン]

秘策、もっちもちのトリモチ弾だ!

これで当分動けないはずだぜ!

[リィンベル]

ありゃ、がっつり捕まえてら。

なーんだ、これであっさり解決ぅ?

[コウモリ怪人だったもの]

ギィイイイイイ!!

暴走怪人が暴れ回り、体をねじると粘着物から脱出した。

その勢いで辺り一帯を壊し始める。

[リィンベル]

うわっ体伸びてら。

そうそう上手くいかないか~。

[エルスマン]

あーっ必死に建てた日除けが!

ギリギリまで日程調整したのを無駄にしやがって!

くそぅ、もっかいやるぞ!

[コウモリ怪人だったもの]

――ぎ?

暴走怪人は注意を別の場所に逸らすと、どこかへ飛んでいく。

[リィンベル]

へ、へぇ!?

あいつなんか違う所にすっ飛んでったけどぉ!

ヒーローを前にどこ行く気だよ!?

[エルスマン]

う、嘘だろ!

怪人がヒーローに関心を無くすなんて……。

[エルスマン]

(怪人が暴走すると強力になるとは聞いてたが、

まさかまったく別の特異になんのか!?

まずいぞ、あっちには――)


[普通な人]

あーっ! 曲また鳴りやがった!

うるせぇな、どうやったら止まるんだこれ!

[俳句なヒーロー]

スマートフォン ダイバーシティの 権化なり

詠み人 がらけぇマン

[普通な人]

ええい、機械オンチなのを雅に表現するな!

結構離れたし、あの怪人を刺激することもないだろうが――

[コウモリ怪人だったもの]

ぐびゃイィィイイイ!!

[俳句なヒーロー]

ぐはぁ!?

[普通な人]

……へ? あ。

暴走怪人からの攻撃は防がれた。

[SONICMAN]

――やっと追いついたと思ったら変なことになってやがる。

まったくツイてねぇな、俺もあんたも。

[SONICMAN]

大丈夫かよ。

こんな時にボーッとしてたらケガじゃ済まねえぞ?

[普通な人]

わぁぁぁ!?

あ、あ、あわわわわわ!

[SONICMAN]

……こりゃダメそうだ。

おい、吹っ飛ばされたヤツ!

このくらいなんともねぇだろ? こいつ見ときな!

[俳句なヒーロー]

む。一生の不覚……。

承知した!

[コウモリ怪人だったもの]

ぐびゃっあぎぃいいいいい!!

アアアアアアア!!

[SONICMAN]

ここは俺がなんとかしてやる!

暴走怪人の攻撃をSONICMANが受け続ける。

[エルスマン]

くそっせっかく助太刀が来たのに手が出せん!

なんて暴れっぷりだ!?

[リィンベル]

さすがにアレは一人じゃ持たないな。

しょうがない、あたし頑丈だし無理やり割って入るかあ。

あいぼー、ちょっと援護を――

[忍者]

……大丈夫だ。

黒い影が二人の間をすり抜けた。

[エルスマン]

なっ新手、いや救援か!?

[リィンベル]

あらま。

あたしたち、運が良かったかも。

アレ見てみろよ。

忍者がワイヤーで怪人を引き寄せ、脇差で翼になっている部分を切り落とした。

[コウモリ怪人だったもの]

きぃいいいい……。

[忍者]

……ごめんな。

大丈夫か、SONICMAN!

[SONICMAN]

まだまだ全然いけたけどな。

でもま、助かったぜ。

[SONICMAN]

でもあんた誰だ?

名乗った覚えがねぇな。

どっかで会ったか?

[忍者]

……そういうこともあるんだよ。

そこの二人!怪人を倒すのを手伝ってくれ!

翼が復活するまでに作戦を立てる!

[リィンベル]

もちのロンだとも~。

倒せるもんなら倒したほうがいいに決まってら。

忍者マン強そうだしな。

[エルスマン]

ここまで来たら最後まで付き合うに決まってる!

でもあれ、怪人が変化したヤツなんだよな。

倒し方知ってるのか?

[忍者]

暴走しようと怪人固有のルールは変わらない。

「怪人はヒーローに倒される」ルールが上書きされているだけだ。

弱点をついたことによる撃破は通る。

[忍者]

もし暴走する前の様子を知っていたら教えてほしい。

なにか心当たりはないか?

[俳句なヒーロー]

……。そういえば。


[コウモリ怪人]

さっきから音がうるさいのだ!!

こーんな真昼間から汚い音楽を鳴らしおって……。

近所迷惑だぞ!恥を知れ恥を!

[普通な人]

あっすみません……って怪人だー!?

おい、おいおいヒーロー! 怪人だぞヒーローおい!

[酔いどれな中の人]

んひっひひなひひ!

ごもっともだ~!

正義のヒーローが怪人に説教されちゃった〜!

[普通な人]

わ、笑いごとか!

怪人が来てんだぞ? これ大丈夫なのか!?

[酔いどれな中の人]

んにゃ〜このぐらいはほっといて大丈夫〜。

これ口だけのタイプ〜。

狩りすぎはよくない〜若手のためにもならん〜。

[普通な人]

そんなもんなのか?

ならいいんだが……。

[コウモリ怪人]

いいわけあるか!!

はーやーく、このやかましい音を消すのだ!

さもなくばこの怪音波で全てを破壊するーッ!

[普通な人]

わわ、わかったわかったわかった!

おい誰だよ爆音BGMしてるやつ!

誰のスマホ鳴ってんだ!

[幹事な中の人]

アァん? このロックを理解できねぇってか!?

地下バンから流星のごとく現れた「奏で」がわかんねぇってのか!

おらっ聞けっ聞けば「心」で理解できんだよ!!

[普通な人]

お前かよぉ! すっかり出来上がってるし!

もう早くスマホ止めろ!

アイツが暴れるし暴れなくても近所の人が来る!

[幹事な中の人]

止まれねぇよ!

SONICMAN様の「魂」を伝えなければ――


[エルスマン]

え?

そんなことあったっけ?

[リィンベル]

やっべえ、5分前のことなのに全然覚えてねぇ~!

うひひひひ!

[忍者]

(お願いだから戦う前に不安にさせないでくれ……)

[俳句なヒーロー]

酒飲みに 金言するな 暴落す

――心からの一句 詠み人知らず

[忍者]

ま、まあ、大音量が苦手そうなのはわかった。

怪人が戦いを挑まずわざわざ止めに動いたってことは、

音が消滅の条件で間違いないはずだ。

[SONICMAN]

よし、スマホで爆音ぶつけりゃいいんだな。

アンプとかスピーカーはあるか?

全開にすりゃ鼓膜ぶち破れるくらいにはなんだろ。

[エルスマン]

……お、おう。

布教用にでっけえスピーカー運んどいたんだ。

中古のだがアンプもついてる。あそこはまだ無事だ。

[リィンベル]

じゃあ、あいぼーはこっそり機械チキチキ。

助太刀マンとアタシが、

大声出して怪人をスピーカーの前まで誘導。

[リィンベル]

忍者マンがワイヤーでぐるぐる巻きにしたら、

スピーカーオンって感じって感じか~?

[忍者]

そうだな。逃げないように抑えてから真正面から音を当てたい。

もしかしたらスピーカーが壊れるかもしれないが、

お願いしてもいいか?

[エルスマン]

拾ったも同然のブツだしな、気にしないさ。

耳割れるくらいの音量にしてやるから、

合図したらしっかり耳を塞いでおけよ!

[リィンベル]

了解~!

あっ俳句マンは引き続き後方で護衛な。

あんた機敏に動くの苦手だろ。

[俳句なヒーロー]

事実とは いえども ちょっと寂しいな

――詠み人 独里慕知

[コウモリ怪人だったもの]

ごびゅっ。

ィィイィ……。

[忍者]

復活してきたか……。

よし、作戦を開始する!

[エルスマン]

任せとけ!

……。

[SONICMAN]

ああ? なんだよ?

人の顔じろじろ見て。

[エルスマン]

そ、それどころじゃないか!

後でちょっと話させてくれ!

じゃ、行ってくる!

[SONICMAN]

……なんだってんだ?

別にいいけどよ。

[コウモリ怪人だったもの]

キィイイイイイイイ……。

[リィンベル]

おーいこっちだこらああ!

さっさと来いやごらああああああああ!

[コウモリ怪人だったもの]

キ!? ぎぎぃイイイ!!

[SONICMAN]

いよっし、釣れた!

ポイントまで走るぞ!

[忍者]

……。

……。

……今だ!

暴走怪人にワイヤーが絡まり、もう一度がんじがらめになる。

[エルスマン]

全員、耳塞げ!

鳴らすぞ!

3、2、1……ファイッ!

スピーカーから、SONICMANの歌が流される。

[コウモリ怪人だったもの]

ビャアアアアア!?

ぐぎっギギギギギギィィィ!?

アアアア!

[SONICMAN]

(あ? なんだ?

耳塞いでるから少ししか聞こえねぇけど。

俺はこの曲を知ってる気がする……)

[エルスマン]

効いてる効いてる!

このままいけば消滅まで――

[コウモリ怪人だったもの]

ぶぅううううううううううん!!

暴走怪人はハウリング音で、スマホを砕いた。

[エルスマン]

な、何!?

俺の高級スマホが……壊れた!

[コウモリ怪人だったもの]

アぐっァァァアアアアアアア!

[リィンベル]

うっそ。アイツ、飛び道具使えるんだあ。

遠距離攻撃って最近の流行りなんだなあ。

[エルスマン]

お、俺のスマホをぶっ壊しやがってえええ!

誰かスマホを貸してくれよ!

CDプレイヤーは持ってきてない、このままじゃ曲が流せない!

[忍者]

駄目だ、こっちは抑えつけるのに必死だ、両手が塞がってる!

ガラケーで良ければ隙を見て渡すが……。

[リィンベル]

あはんごめん、スマホ忘れた。

[エルスマン]

令和の世だぞお前ら!?

俳句マンはガラケーマン!

あーダメだ、もうお終いだあ!

[SONICMAN]

……。


[シャインピンク]

なんであんた、ギターで怪人で殴ってんの?

使い方おかしくない?


[SONICMAN]

やぁっと思い出した。

コレが――正しい使い方か!

SONICMANがギターで猛烈に曲を弾き始める

爆音とは言わずとも、暴走怪人が反応した。

[コウモリ怪人だったもの]

き? きいいい……。

[リィンベル]

うわギターうっま。

しかも動き止まった?

これ、関心示してるくさいな?

[エルスマン]

この曲を弾きこなすとは。

フフッそうか。

やっぱり、そういうことだな!

[SONICMAN]

(なーんか、弾いてると懐かしい気持ちになんな。

……そうか。少しだけ、思い出した)

[SONICMAN]

(俺はこいつらに喜びを伝えたかったんだ。

在り方を変えようとかそんな大層なもんじゃない。

「嬉しい」って気持ちを分けて、温めてやりたかった)

[SONICMAN]

(そのための力があると、俺は信じた……)

[忍者]

SONICMAN……。

……。

忍者が静かに暴走怪人に歩み寄る。

[コウモリ怪人だったもの]

きぃきぃ。

[忍者]

……本当は、もっとこの曲を聴きたいんだろうな。

俺にできることは、君が正気のうちに”倒す”ことだけだ。

終わりを与えることしかできない。

[コウモリ怪人だったもの]

き!

[忍者]

――御免!

忍者が暴走怪人を脇差で斬ると、怪人は光の粒となって空へ消えた。

ピンクの空はゆっくり青色に戻っていく。

— [エルスマン]

おっしゃあ!

なんか知らんが音楽のパワーで解決したな!

[SONICMAN]

……あ? もう終わったか。

案外あっけないもんだ。

[エルスマン]

お前、いい機転だったな!

しかもすっげえギターが上手い!

その名前、その見た目。もしかして――

[エルスマン]

お前、SONICMAN様のファンだな!?

こんなところで同類に会えるなんて!

くーっ長年のぼっちがついに実を結んだ!

[エルスマン]

しかも演奏まで完璧だ!

生まれ変わりかと思ったぞ!

歌も練習してニアピンSONICMANぐらいには――

[SONICMAN]

生まれ変わり、か。

あー。

あながち間違いでもないかもな。

[エルスマン]

な、なんたる自尊心!?

だがこのぐらいのほうが今はいいな!

最近妙な噂が流れてるし――

[リィンベル]

よかったあ~。

これで酒盛り再開だあ!

[エルスマン]

ってお前!

この後に及んでまだ飲む気か!

まず変身を解いて……?

リィンベルは変身を解いてみすぼらしい男に近づく。

[酔いどれな中の人]

ようオッサン、今日も飲んでこうぜぇ?

どう転ぶかわかんないけどさ、

飲んどけば目も覚めるぜぇ。

[みすぼらしい男]

飲めば酒に呑まれるだけだ。

現実逃避してもどうしようもない。

[酔いどれな中の人]

なーんでこんなことしたん?

一緒に飲んでただけの間柄だけどさあ、

悪いことはしないって、そのくらいはわかるんだわ。

[みすぼらしい男]

今更何を言っても言い訳にしかならん。

どうせ警察に全てを話すんだ。

無関係な第三者を巻き込むつもりはないな。

[忍者]

「巻き込む」――ということは、

貴方を唆した誰かがいるんだな。

[みすぼらしい男]

……言葉の綾だ。

忘れろ。

[忍者]

卵の殻を渡されたな?

俺は怪人を暴走させる犯人を追っている。

少しの手がかりでもいいから教えてくれないか?

[みすぼらしい男]

……鏡の中の女だ。金髪の、美しい女から殻を渡された。

だが、どのように出会ったのかまるで思い出せん。

思い返せば、ヤツは特異だったのかもしれない。

[忍者]

(鏡の中の女……やはり……)

[幹事の中の人]

よくわからんが、特異のせいもあるかもって感じか。

とりあえずこの人が首謀者ってことはないな?

ヴィラン報告はなしでいいな。

[みすぼらしい男]

待て。特異を悪用した人間は等しく”ヴィラン”だ。

対ヴィラン隊に引き渡す決まりのはずだろう。

[SONICMAN]

ヴィなんとかのことは知らねぇけどの。

アンタ、資格持ってねぇんだろ。

資格持ってないなら変身もできないんじゃねぇのか?

[みすぼらしい男]

……。

[酔いどれな中の人]

(あちゃー…オッサン変身できないタイプの人だったかあ。

今回はいい方向に働くだろうけど、

よりにもよってかあ。)

[幹事の中の人

あんたの様子は明らかにヘンだったからな。

特異影響が認められて責任なしってこともある。

だいたいあんな狂犬ども呼んでたらキリないや!

[幹事の中の人]

というわけで、この話終わり!

仮にも相棒の知り合いだし、事実だけ伝えるようにするわ。

思ってたよりマトモそうだしな。

[酔いどれな中の人]

会見やるって聞いたときはマジかよって思ったけどね~。

ひっでぇ会見だったし。

うひひひひ!

[みすぼらしい男]

アレについて触れてくれるな。

今は反省しているんだ。

……もう少し危機感を煽るべきだった。

[酔いどれな中の人]

(いや反省の方向間違ってるし!

気を取り直したならいいけどさあ!)

[SONICMAN]

――なあ、アンタ。

署に行く前にちょっと教えてくれないか。

[SONICMAN]

アンタは昔、“レッド”として影獣を倒したはずだ。

怪人という特異はそっから生まれた……

なんて噂もある。

[SONICMAN]

ただの一般人があんなんと戦うなんて、

よっぽどの勇気がなきゃ無理だろ?

そんなアンタが、わざわざこんな行動に出た理由はなんだ?

[レッド]

……お前たちは、少しでもおかしいと感じたことはないのか?

なぜ、自分が特異ありきで動いているのか。

なぜ、害あるものが当たり前になっているのか。

[忍者]

……。

[レッド]

俺が影獣を倒したのは、明日を守るためだ。

ピンクの空を二度と広げないためだ。

だがいつの間にか、明日は別のものにすり替わっていた。

[レッド]

影獣を倒すべきと言っていたアナウンサーが、

同じ口でヒーローが怪人を倒すことを賞賛している。

犠牲者がいるのにだ。

[レッド]

影獣は多くの失踪者を出した。

怪人だって被害を出している。

なのに誰も、違和感を口にしない!

[レッド]

変化についていけない男だと馬鹿にされようとも、

どうしても納得がいかなかった。

特異のない世界こそ、人類の向かうべき明日じゃないのか?

[レッド]

特異を受け入れるよう見えざる形で侵食されている。

そう感じたから抵抗した、それまでの話だ。

フフフ……言ったところで、理解を得られた試しがないが。

[SONICMAN]

アンタは――

影獣を倒したときも、そんな気持ちだったのか?

[レッド]

……。

[SONICMAN]

おいおい、答えてくれよ。

俺にとっては大事なことなんだ。

[レッド]

……今でも、よくわからない。

あの時はただただ必死だった。

[レッド]

これはヒーローショーの一幕で、俺が主役だ。

そう自分に言い聞かせた。

だから、あのデカブツだって倒せると。

[レッド]

悪者なんだから大人しく倒されろ。

そんな軽はずみな正義感のまま戦ったんだ。

賞賛を得たときは、本物のヒーローになれたとも思った。

[レッド]

大層な義憤も信念も無かったのにな。

ははは……それがうまく嚙み合ってしまって、

勘違いが直らないまま今に至ってしまった。

[レッド]

本物の怪人が現れたときも、

本物のヒーローになれなかったときも、だ!

俺こそが、この世の誰よりヒーロー気取りだった。

[レッド]

本当にくだらない男だ。

結局俺のしたことは、何の意味もなかったんだよ。

[SONICMAN]

そうか……。

……。

[*]

『ありがとう』

[SONICMAN]

難しいことはわかんねぇけどよ。

アンタのやったこと、

全然無駄じゃねえよ。

[SONICMAN]

‘’俺たち’’とアンタらの関係が

憎み憎しみあうだけなんて――

そんなの、辛いだけだろ?

[レッド]

何?

……まさか、お前は。

[SONICMAN]

アンタの話、聞けてよかった。

じゃ、俺はもう行くな!

次が待ってんだ。

[忍者]

俺も付き合うよ。

旅は道連れだろ。

[SONICMAN]

変わりモンだな……

ま、好きにしな。

周りを置いて、2人はどこかに去っていく。

[幹事な中の人]

――ハッしまった!

流れについていけないうちに帰られた!

連絡先まだ聞いてないんだが!

[酔いどれな中の人]

ひひひひ、逃げられたねこりゃ。

まあいいじゃん。まだ缶もあるし飲んどこ~?

はい、ドーゾ!

[みすぼらしい男]

犯人に酒を勧めるな。

だらしのないヤツだな、まったく。

[幹事な中の人]

まあまあ、いいだろ。

こういうヒーローがいても!

[みすぼらしい男]

……そうだな。

そうだったな。

すっかり忘れていたよ。

[みすぼらしい男]

(どんな形であれ、

向き合う勇気を持つ者こそが、

本物のヒーローだったはずだ)

[みすぼらしい男]

(かつての私がそうだったように。

出来るだろうか……

今からでも、向き合うことが)


人気のないマンションの屋上に、SONICMANと忍者は来ていた。

[SONICMAN]

ここ、良い眺めだよな。

いつから知ってんのかはわかんねぇが、

なんとなく覚えてんだよ。

[SONICMAN]

誰かとどうしようもない話をしたこととかな。

なあ。

これって”始まり”のSONICMANの記憶か?

[忍者]

……違うな。

俺が彼と会ったのは河川敷だったんだ。

— [*]

歌を歌うのは嫌いじゃねぇんだ。

嫌なことも汚いことも、

ぜーんぶ綺麗な音になっちまうから。

— [忍者]

今となっては遠い記憶だ。

その記憶の断片が、今の俺を生かしている。

[SONICMAN]

やっぱり”俺”とアンタは

会ったことあんだな……。

だったら俺の時間もそんなにないってこともわかんだろ?

[忍者]

SONICMAN。

怪人が変容して発生する”人型怪人”……。

[忍者]

でも君は発生したばかりじゃないのか?

深化までまだまだ時間があるはず。

いったい何をそんなに焦っているんだ?

[SONICMAN]

……。

もういつ暴走するかわかんねぇからな。

SONICMANは背中を見せる

背中には卵の殻が刺さり、巨大なカマキリの鎌が見えていた。

[SONICMAN]

俺は暴走怪人から発生してんだ。

せっかく妙な力を注入されてっからな、

逆手にとって強いものに”成った”!

[SONICMAN]

「怪人はヒーローに倒されるもの」

そんな怪人のルールを上書きしようとする奴がいる。

ソイツの面を拝むのと、俺達の定義を確認すること。

[SONICMAN]

それが俺の持つ目的だった。

片方はさすがに無理だったが、

“始まりのヒーロー”には会えたから十分だろ。

[忍者]

そうか。特異として定義されることになった理由。

その全てを、お前は――

“怪人”は、知りたかったんだな。

[SONICMAN]

会えてよかったよ……。

俺達が憎しみから生まれたものじゃないってわかった。

憎まれるための存在じゃなかった。

[SONICMAN]

ヒーロー様の踏み台になるのは癪に触るけど、

ヒーローショーぐらいならいくらでも付き合ってやるよ。

ハハッ実際は怪人のためのヒーローだけどな!

[SONICMAN]

で、せっかく強く生まれたから

憧れのヒーローごっこもやってみたってとこだ。

すっかり忘れてたんだけどな。

[忍者]

憧れ、か……。

[SONICMAN]

おっと猿真似なんて言うなよ。

人様の温まった感情に水かけるなんて

無粋じゃねぇか。

[忍者]

いや違うんだ。

俺は、俺達は――

君たち怪人が望む理想のヒーローに、なれているか?

[SONICMAN]

はぁ? 知らねーよそんなの。

テメェの胸に聞きな。

[SONICMAN]

そんなことより、アンタこそ怪人をどう思ってんだ。

ここまで知ってりゃただの迷惑な奴らだって、

多少なりとも思ってんじゃねぇの?

[忍者]

そうだな……。

君たちが現われて世界は大きく変わった。

そこは否定しない。

[忍者]

だけど俺は、自分たちなりに世界を楽しむ君たちを

どうしても悪く思えないし、

満足のいく終わりを与えるこの仕事を誇りに思ってる。

[忍者]

たとえ、君たちが自ら定義を変えたとしても、

良き隣人として歩んでいきたいと思ってるんだ。

]


人みてぇな人間がいてもいいじゃねぇか。


間みてぇな怪人がいるんだからよ。


[忍者]

SONICMANのように。

[SONICMAN]

……アンタにとって、

”始まり”は大切だったんだな。

[忍者]

俺は怪人が好きだよ。

ヒーローであれて良かったと、

心から思っている。

[SONICMAN]

わりぃな。

嫌な役目を押し付けて。

怪人の本能か、自分で自分をってのは難しいんだよ。

[忍者]

気にするな。

それが俺の望んだ役割だ。

[SONICMAN]

――最期にさ、アンタの名前を教えてくれよ。

テメェにだって名前はあんだろ?

[宏斗]

俺は……俺の名前は宏斗。

生瀬宏斗だ。

君の名前は?

[SONICMAN]

俺たちはSONICMANだ。

とっくの昔にもう名乗ってんだろうが。

[宏斗]

それは特異としての名前だ。

“君”の名前を教えてほしい。

[宏斗]

俺にとって、君は――

SONICMANであり怪人であり、そのどれでもない。

かけがえのない、たった一つの存在なんだよ。

[宏斗]

記憶があろうがなかろうが関係ない。

頼まれたんだ。

次にやってくる“兄弟たち”をよろしくって。

[宏斗]

だから、君だけの名前を俺に教えてくれ。

未来へ持っていくよ。

[SONICMAN]

はぁ。

最期の最期に難儀な頼みしやがって。

……まったくしょうがねぇヤツだな?

[SONICMAN]

ま、あえて名乗るとしたら、

そうだな。

俺の名前は――


[俳句なヒーロー]

ハヤテ去る 影法師の伸びゆくを踏む

[俳句なヒーロー]

――詠み人 忘れ去られ院。

[普通な人]

あのさ、詠んでないで結局どうなったか教えてくれよ!

気がついたら4人はいないし、変なオッサンもいないし。

結局俺、どうすればいいんだよ!

[俳句なヒーロー]

――歳時記詠む院。

[中の人ども]

なーなー。

もう再開してもよくね?

[中の人ども]

怪人倒したっぽいし、

なんかもう大団円って感じでしょ!

[普通な人]

こらこら酒飲みしようとすんな!

現場保存しろよ?

わかってるよな? な!?

[普通な人]

(ああ〜亡霊SONICMANの噂なんて

聞かなきゃよかった!

そしたらビビって伸びるなんてことなかったのに!)

[普通な人]

(……助けてもらったのに悪いことしちまったな。

もしかしたら「わざと悪い噂を流してる」ヤツがいて、

嫌がらせしてんのかも)

[普通な人]

ま、過ぎたこと悔やんでもしょうがないか。

お前達、間違ってももう酒は飲むなよ。

絶対飲むなよ? わかってるな!?

[中の人ども]

は〜〜い……。

[普通な人]

曲ぐらいは同じの流しといてやるか。

え~とさっきの曲は――これか?


[宏斗]

(この世界にいつまでも、

お前の歌が響いていてほしい)

[宏斗]

(君たちを歪めようとする悪意、企み――

すべて俺が止めてみせる)

[宏斗]

だから安心して眠っていろよ……。

[*]

日本で最も多く生じる特異は、

特撮番組の悪役がごとき「怪人」だ。

[*]

世界滅亡の憂いから一転、影獣を倒した偉大なるヒーロー。

その英雄譚が特異の出現を偏らせたのだ。

[*]

でも安心してほしい。

本物の怪人がいるのであれば、当然――

[*]

本物のヒーローもまた、いるのだから!

プロメテウスシング 1話 終わり