【序文】
『出るものあれど入るものなし』と謳われる霧深い森の奥。
そこには時計塔を囲むまぼろしの街「ミンディア」がある、はずだった。
森の霧は突如晴れ、消失したミンディアの代わりに異様な時計塔が姿を現す。
カチコチと時を刻み続ける「時巡りの塔」。
塔にして魔術たるそれは、時を戻すための形を成そうとしていた。
入口には見えざる壁が立ちはだかり、何人たりとも入ることはできない。
ミンディア消失の噂を聞きつけた少女、エナ。
エナは群衆をかき分け、焦燥感に駆られるまま時計塔の入り口に手をかける。
引き留めようとした人々は驚いた。
あったはずの見えざる壁をすり抜けて、エナは時計塔の奥へ駆けていったのだ。
まるで誘われるかのように――
【どんなゲームだったの?】
・ゆめにっき+ループものADVみたいなゲーム
塔に入るも記憶喪失になった少女エナが、記憶を集めながら時巡りの塔を昇っていく。
塔は第三階層まであり、ミニイベントや謎解きで記憶を解放できる。
頂上までつくと時計塔の主との決着が始まり、またループを繰り返す。
条件を満たさないと入れない裏階層も存在する。 マルチバットエンド。
ループして記憶を集めながら、分岐を辿ってTrueEndを探す、そんなゲーム。
・時計塔は「時計塔の主」の精神世界になっており、
1階層では幼少期、2階層では少年期、3階層では「何かがあった」直前の層となっている。
上の階層にいけばいくほど病んでいく。
時計塔の中は空間をも無視しており、異常な世界が広がっている。
周囲の環境も取り込んでおり、街や街の住民も「生死問わず」塔の一部となっている。
しかしほとんどは無残な姿に成り果ている……。
キーとなる情報は# 真実に載っています。
【過去の真相】
1.エナとディーヴァ
『入るものあれど出るものなし』と謳われた、霧深い森の奥。
山中にひっそりと息を潜めるのは、時計塔が聳え立つ、魔法が生き延びた街「ミンディア」。
目が緑色になる病「緑目病」を患ったエナは、ミンディアの縁者を頼り、両親とともに街の住民となる。
幼馴染は、明るい少女サミン、泣き虫のジルヴェ、そしてわんぱくな兄ディーヴァ。
4人の子供たちは仲睦まじく森の中を駆け回っていた。
ある日、エナは森で傷ついた「黒い獣」を見つける。
なぜかサミンとジルヴェには見えていない、その獣を助けようと近づいた瞬間、黒い獣が覆いかぶさってきた。
――気が付いたときには、目の前には泣きじゃくるディーヴァがいた。
無事街に戻った4人。しかし大人たちは黒い獣の話を聞くや否や、説教するどころか顔を青くして山狩りを始める。
エナの両親は、ひどく怯えた目でエナを見つめていた。
2.破綻
緑目病を治すためにあらゆる手を尽くす両親。
両親の尋常じゃない様子にエナは恐怖する。
一方、ディーヴァは「魔術が見えるようになった」と異様な魔術の才を発揮する。
ディーヴァとジルヴェの母親カナンは頭を悩ませた。
ミンディアでは兄弟がいるとき、弟を汚れ仕事を担う「狩人」にすることが定められている。
狩人を家から出すことは名誉とされる一方、狩人になった者は人として扱われず心身をミンディアに捧げる運命にあった。
もともと我が子のために兄弟を連れてミンディアから去ろうとしていたカナンは、ディーヴァを隠そうとする。
しかしディーヴァの力に気づいた町長は、カナンとジルヴェを消し、兄であるディーヴァを狩人にしようと企てた。
これまでカナンは、ジルヴェにもディーヴァにも魔力はなく狩人にはできないと偽ってきた。
その非を以て処刑されることを見越し、カナンは2人が眠っているうちに逃がそうとする。
しかし途中で露呈し、ジルヴェを馬車に載せて街の外へ送るも、追手に銃で撃たれカナンは絶命する。
ディーヴァを一人残して――
3.嘆き
一人残されたディーヴァは、
「ジルヴェは魔力がないと嘘をつかれていたことに激怒し母であるカナンを殺した」
「ジルヴェは親殺しとして処刑された」
というカバーストーリーを信じ込まされ、大罪を犯した弟に代わり狩人になる。
償いのため心を殺し、かつての笑顔は失っていた。
狩人の一員として、ミンディアを狙う「盗賊」を殺して回った。
サミンもディーヴァを気にかけてはいたが、狩人ともなれば住む世界が違うと諭される。
彼女自身も笑顔を失くしたディーヴァを恐れ、徐々に一線を引くようになっていった。
緑目病が治り黒目となったエナは、狩人となったディーヴァにたびたび会いに行っていた。
私語を交わすことさえ許されていないが、街の人々から隠れて交流を続ける。
エナの父親は死に、エナの母親は、どこかおかしくなっていた。
エナが黒い目になってもうわごとのように、緑色だ、緑色だと言う。
定期的に街の図書館に行けば、ひどく憔悴した様子で帰ってくる。
お前のせいで、お前のせいでとつぶやき続けた。
4.黒い病
不穏な街に黒い病が訪れた。
旅の医師リリシュカが手を施すも倒れていく住民たち。
もう助からない者、そして「手を尽くす価値のない者」。彼らを処分するのは狩人の役目だった。
心を殺し、淡々と処分していくディーヴァ。
処分される者の中には、サミンがかわいがっていた少女がいた。
少女を救うため、あらゆる伝手を使って薬を得ようとしてたサミンは大きく絶望し、ディーヴァに失望する。
「あんなに優しかったのに、どうして!?」
そんな時に耳にした、口さがない噂。
「ディーヴァは狩人となるために、ジルヴェを殺したのではないか?」
それを聞いたがゆえに不信感を爆発させてしまう。
幼なじみだった2人の間に、深い溝が生まれてしまった。
5.魔女
母を黒い病で亡くし、一人ぼっちになったエナ。
黒い病は落ち着き、大切な人を亡くした住民たちは行き場のない怒りを抱き始める。
「狩人が殺したから助からなかったんだ」
「異端者がいたから助からなかったんだ」 「魔女がいたんだ」
そうだ、昔、緑色の目をしていた女がいたはずだ――
エナがいたから、魔女がいたから、黒い病が広まったのではないか?
恐ろしい考えに囚われた住民たち。
サミンがエナを必死に庇うも、きっとそうだろう、きっとそうだろうと立場は悪くなる。
まるで何かの幻影に怯えるように。
魔女狩りされかねない、そうなれば殺されるだけでなく正気に戻った住民たちも深く傷つく。
そう思ったエナは街から出ていくことを決意する。
サミンの協力のもと、そっと街の外に出たエナを待っていたのはディーヴァだった。
渡されたのはお守り。 二人はいつかの再会を誓って、その手を離した。
6.悪魔
盗賊狩りを再開するディーヴァ。
しかし、これまで殺してきた「盗賊」の風貌に、ずっと違和感があった。
だんだん大きくなる違和感。
血を浴びて帰るディーヴァを恐れる住民たち。
そんなディーヴァの前に悪魔マクスウェルが現れた。
かわいそうにねえ、こんなに頑張っているのに感謝ひとつもないなんて。こんな連中滅ぼしちゃおうぜ?
俺が力を貸してやるよと笑う悪魔の誘惑を、これも街を守るためだと一蹴するディーヴァ。
マクスウェルは諦めずディーヴァを誘惑する。
ディーヴァは街の人を想いマクスウェルを拒絶する。
繰り返されるとりとめのない会話。
奇妙なことに――エナが去った今、ディーヴァの話し相手は、この悪魔になっていた。
7.崩壊
エナがいなくなり偽りの安息を得た街の人々。
その様子を見て、サミンが街のあり方に疑念を抱き始める。
この街は、何かおかしい……。
ミンディアの昔話を調べ出すサミン。
街のタブーに触れるサミンに、サミンの父は意を決して真実を話した。
ディーヴァの弟、ジルヴェは生きている!
ジルヴェを逃がした日の馬車の御者がサミンの父であり、今でもジルヴェからの手紙を受け取っているという。
あの日の真相を知ったサミンは、ディーヴァに謝るため、そしてディーヴァをこの街から解放するため走り出した。
しかし――
町長たち権力者たちに呼び出されたディーヴァ。
盗賊の出る範囲が広がったから哨戒にあたるように……そう告げられ、どうしても気になり、ついあの盗賊たちは何者なのかと聞いてしまう。
なぜミンディアが狙われているのかと。
無私の働きぶりを鑑みて、話してもいいだろうと語られた真実。
ディーヴァが殺してきたのは、何の罪もない人々だった。
近くの村民、森を通る商人、世界を回る旅人、行方不明者を探す騎士たち。
ミンディアに害意を持たない彼らを盗賊と呼んでいた。
森に立ち入る人間が増えたから、人狩りをする範囲を広げたいのだと言う。
お前ならできる、お前は最高の狩人なのだからと、町長は気が大きくなってあの日のことも話し出した。
狩人になれないお前に名誉を与えたやったのは私だ、お前を認めなかったあの女も、無能な弟を消してやったのはこの私なのだ、と。
――ぷつりと、糸が切れる音がした。
ふと気が付けば皆殺しにしていた。 血まみれで呆然と佇むディーヴァ。
「ざまあみろだ畜生ども! さあ何もかもぶっ壊そうぜ相棒!」
マクスウェルは嬉々としてディーヴァに呼びかける。
しかし彼はふらついた足取りで床に魔術を描き始めた。 時巡りの秘術。
殺してしまった。あのひとたちも。みんなみんな殺してしまった。
やり直すんだ……何もかも。みんなを戻すんだ……。
ぶつぶつ呟くジルヴェに、マクスウェルは絶句し、ただただ立ち尽くし――
かくして時廻りは成された。
【ゲーム中の登場人物】
- エナ
主人公。黒い髪に緑色の目を持つ。記憶をすべて失っているが、時計塔の主に会いに来たことだけは覚えている。
- 時計塔の主
時を戻す秘術にして大魔術「時巡り」を紡いでいる者。
時計塔の主を中心に織り上げられた魔術が、時計塔を元に、
「時巡りの塔」を形作っている。
時巡りは絶対に成功しない秘術と言われており、
失敗すればまず大陸一つ吹き飛ぶため人々は何としても阻止しようとしている。
- カナン
1階層で出会う不思議な少女。
姉であるネルの痕跡を追っている。エナの正体を知っているそうだが、教えてくれない。
- サミン
2階層で鳥かごに閉じ込められていた、エナの幼馴染で怪力娘。
「しなければいけない大切なこと」を忘れているらしい。
エナに同行してくれる。
- レジィ
3階層を探索する魔術師の男。エナに金目のものを渡せば協力してやると持ち掛けてくる。
時計塔を調査しにきたそうだが……。 - マクスウェル
1階層裏で姿を現す悪魔。時計塔の主の体を乗っ取ろうとしている。
時計塔の主のことをよく知っているようだ。 - リリシュカ
3階層裏に佇む、物静かだが恐ろしさを感じさせる女性。レジィの知り合いにして有力な魔術師。
協力を頼むと喜んでついてきてくれる。だが……。
※カナンとリリシュカだけが、ループに気づいている。
・設定資料・表
【魔力/魔術】
現実を書き換え幻想を具現化する力。
どのくらい書き換えられるかは個人差があり、その実行量を魔力と呼んでいる。
魔力を集めれば不可能を可能にできるが、
大量の魔力を浴びると体が変質し、人ならざるものになってしまう。
魔力の受け皿として人間は魔術を思いついた。
魔術は細かい図形の重なり合いから形成される。
一般的には床や地面に文様(魔術陣)を描くが、紙に記したり、建物に刻むこともある。
生まれつき体内に魔術を持つ子も存在する。
大規模な魔術や恒久的に稼働する魔術を扱う際は、鍵と呼ばれるコアに魔力を充填する。
術者が死ぬと魔術は止まる。
【緑目病】
魔力の多い子どもがかかる病。
目が緑色っぽくなり、魔力が多ければ多いほど鮮やかなエメラルドグリーンになる。
治療方法は簡単で、水晶体にたまった魔力を散らす目薬をさし続ければだんだん本来の目の色に戻る。
ミンディアの住民は緑眼を恐れているが――
【狩人】
ミンディアを守るため汚れ仕事を担う者たち。
主に街の近辺に出現する盗賊を狩っている。
ほかにも病人を介錯したり、墓守として墓を管理したり、死にまつわる事柄も行っている。
よって、狩人となることは名誉とされるが、狩人になった彼らを尊敬する者はいない。
狩人となれたのは能力が優れていたから。
しかし狩人となってしまえばただの優れた力を持つ猟犬だ。
人でなくなった彼らを想う者はいない。
それでもミンディアの平和を守るためには必要不可欠な存在。
【時計塔】
いにしえよりミンディアの地に聳え立つ時計塔。
時を刻むことはなく、永遠に止まっている。
外部の敵が近づいてきたとき、時を遅くしたり、緩くする機能があるようだ。
それが目視されたことはないが、森に立ち込める霧は時計塔が起こした時空の歪みによるものだとされる。
構造・原理一切不明であり、神秘的な力を用いて永久に稼働し続ける。
【悪魔】
人々の空想から生まれた怪物。
人は無自覚のうちに、常に呪文を、魔術を唱えている。
一人一人は大した力ではないが、大勢の人間が「それ」を信じることで、現実を捻じ曲げ具現化する。
悪魔は己が消えないよう、自身を世界に刻みつけるために大暴れする。
時に誘惑し、時に破壊する。有力な者を殺し、その体を乗っ取れば、全てを消し去るまで止まらない。
生まれる悪魔はさまざまだ。伝承から生まれることもあれば、事件の風聞から生まれることもある。
恐れおののく心こそが悪魔の生まれる温床だ。
事件から生まれた悪魔は、なぜか伝承の悪魔より人を誘惑するのがうまい。
そして肉体に対する執着は人一倍だ。
まるで仮初の命を得て、事件の当事者が蠢き動き出したかのようである。
しかし忘れてはならない。「死者は決して蘇らない」
【魔術師協会】
ミンディアの外にある魔術師たちの協会。
複数の派閥があり、中には悪魔に対して過激な制裁を行う者たちもいる。
魔術に依らない銃は魔術師殺しとして有力なため、
協会員のほとんどは携帯している。
【昔話】
・神様の時計塔
※[]内は初稿
むかしむかし、時の女神がおりました。
ある日女神が森を歩いていると、傷だらけの人々と出会いました。
彼らはみな不思議な力を持っていましたが、不気味だと思われて町を追い出されてしまったのです。
このままでは寒さもしのげず、オオカミに食べられてしまいます。
そこで女神は彼らのために、大きな大きな塔を作りました。
レンガを積み上げ、時をしめす盤をつけた、立派な時計塔です。
わるい奴は食べてやるぞ。
黒い大きなけものがやってきましたが、神様の塔がはじきました。
じゃまな奴らを吹きとばしてやろう。
悪い魔女が嵐を呼びましたが、神様の塔が時を巻き戻して、なかったことになりました。
わるいやつ、やっつけたぞ。
人々はよろこんで、魔女とけものをかまゆでにしました。
こうして人々は安住の地を手に入れましたとさ。めでたし、めでたし。
・登場人物一覧(ゲーム中)
※進行状況に合わせて解放されること前提に書いてます。
・エナ
主人公。
町に住んでいた普通の少女。本来は黒髪黒目だが、「緑目病」という病を再発しエメラルドグリーンの目になっている。
無口で無表情だが内心の感情はそれなりに豊か。
・ディーヴァ
狩人として務める少年。口を閉ざし頑なに仕事を全うする。
ただひたすら、ミンディアのために――
その2
かつては笑顔も多い、心優しい少年だった。
自分に話しかけてくれるエナに対しては並みならぬ愛情を持っている。
その3
弟がいた。 泣き虫なのに手先が器用な弟に嫉妬していたが、
魔術の才が芽生えてからは魔力のない弟に魔術を見せびらかしていた。
そのことを今でも悔やんでいる。
その4
昔はわんぱく小僧だった。
しかし弟のジルヴェに代わって狩人になると決めたとき、ジルヴェの代用品になることを決めた。
一人称を俺から僕に変え、柔らかな物言いを心がけるようになった。
別人になろうとしたが、性根の優しさは変わらなかった。
優しいから耐えきれなかった。
・レジィ
守銭奴の魔術師。やさぐれておりドライな性格。
魔術師協会から時巡りの塔の調査にやってきた。 意地が悪い。
その2
この近辺で行方を絶った黒髪の魔術師を探している。
魔術の知識は並大抵のものではなく時計塔についても詳しい。
時計塔の調査だけでなく、他にも何か大きな目的があるようだ。
その3
かつてミンディアに住んでいたことがある。
その時から魔術の才があったがうまく隠していた。
へたくそとバカにされ苛立つこともあったようである。
その4
母が、馬車でミンディアの外へ逃がした。
身寄りがないため街の外では苦労したが家族のことは常に心の片隅にあった。
世間の荒波にもまれるうちに口は悪くなり、無駄に涙を流すこともなくなる。
不思議なことに、今の彼はわんぱく小僧だった頃の兄とよく似ていた。
・サミン
超元気いっぱいの少女。エナの親友。
生まれつき怪力の魔術を持っている。
直近の記憶を失っているが、あんまり気にしていない。
元気があればなんでも解決!
その2
無口無表情なエナにとって、サミンは一番の友達だ。
サミンはエナが笑っていなくても全然気にしない。
心で笑っていることをちゃんとわかっているからだ。
その3
幼馴染4人のこと、とても大切に想っていた。
いつまでもあの4人で遊んでいたいと思っていた。
なのになぜか、胸に穴が空いてジクジクと痛い。
この空白はなんなのだろう――
その4
ディーヴァに謝らなきゃ!
そう思ったその時、時計塔の鐘が鳴り響き、サミンの時間は立ち止まる。
もう一度ねじを巻きなおしたい、もう一度4人でやり直したい。
そんな思いと記憶ごと、凍り付いて止まってしまった。
すっかり忘れていた。今度こそ本当のことを、伝えなければ。
・カナン
エナの前に現れたミステリアスな女の子。 姉の行方を捜しているという。
亡霊を自称しているが……
その2
カナンにはかつて姉がいた。
強気で男勝りで、いつも男の子たちを泣かせていた。
「私はカナンのそばで生き続けるよ」
ほんの15文字だけ書かれた手紙を最後に、姉は消息を絶つ。
それを胸に彼女は生きた。
その3
夫は狩人だった。 無表情で、冷血だと人は言う。
けれどカナンは夫にも温かな血が流れていると信じている。
だって子どもが生まれたとき、ほんのわずかに、口角をあげたのだから。
その4
カナンにとって子どもたちは何よりの宝だ。
愛らしい二人の兄弟。ずっとずっとそばで成長を見守りたいと思っていた。
願いは叶わなかったが、想いは生きている。
・リリシュカ
ミンディアの医師を務めていた、ニコニコ笑顔の美人。
正体は魔術師であり、時巡りの塔の調査に入っていた。
レジィとは顔見知りのようで「ババア」と呼ばれている。
その2
リリシュカは、時計塔の主を殺す気だ。 理由はわからない。
なぜ、エナに冷たい目を向けるのかもわからない。
わかることは、いつも作り笑顔だということと、まぶたを開けば人工的な蛍光緑の目が見えるということだけだ。
その3
「悪魔を狩らなくてはならない」
そんな信念を貫くうち、リリシュカは醜く歪んだ。
欲深い人間を餌にして悪魔を討とう。 それこそ世界の救済だ!
その4
リリシュカには何もない。
ただ第三者として横槍を入れ、ただ死者を眠らせようとする。
教義を歪め、墓守を弄する。そこに疑念も躊躇もない。
それを嘆く者も、もういない。
・マクスウェル
心をすり減らした者を誘惑する、お喋りな悪魔。
ささやきかけ、破壊を手引きし、何もかもを崩壊させる。
悪魔の甘言に乗ってはならない。
その2
マクスウェルは時巡りの秘術の主を乗っ取り、すべてを壊したいようだ。
破壊しつくすことは、悪魔マクスウェルの名が不滅になることを意味する。
それは悪魔にとっての渇望であり悲願だ。
その3
※前半ver 乗っ取って、願いを果たした。 虐殺だ!
暴虐だ! 喜びが胸がはちきれそうだ!
「マクスウェル」は人のマネをして、人のココロのフリをして弑逆を楽しむ。
目を細めて、口を開けて、笑顔のようなものを作る。
されど虚ろな心は満たされず、世界を穴だらけにしても満たされることはないだろう。
永遠に。
※後半ver 不幸な事件から生まれ、何を成すべきかもわからない。
ただ虚無感と義務感、焦燥感だけが虚ろな心にこだまする。
そんな時に見かけた、やつれはてた少年。
「こいつはいい獲物だ。とって食ってやろう」
マクスウェルは少年を破滅へ導くことにした。
心に役割を入れるために。さまよう魂を慰めるために。
その4
ディーヴァは頑なだった。
どんなに人の愚かさを指摘しようと、どんなに惨めな身の上を指摘しようと、ディーヴァは揺るがなかった。
なんてつまらないヤツだ!
ここまできたら徹底的にやってやろうと躍起になってコケにした。
あらゆる舌戦を尽くして馬鹿にした。
なのに、悪魔でもなんでもない人間の、なんの他意もない言葉で、ぽきっと折れてしまった。
なんてつまらないヤツだ。 本当に、つまらないヤツだ。
まったく。
・END集
資料が残っていなかったので記憶の限り
分岐点
1.各層にある「鍵」を壊すかどうか
「一つでも壊す」か「全て残す」かで分岐
鍵はディーヴァの精神的支柱の具現化なので、
実質ディーヴァが悪魔(マクスウェル)に乗っ取られるかどうか
(マクスウェルはディーヴァのことを気に入ってはいるが、
それはそれとして隙があれば平然と乗っ取ってくる)
2.サミンが最後までいるか
サミンの記憶が戻らないまま第2階層から連れ出そうとするとサミンが消えてしまう
(魂が塔と一体化しているので、死んではいない)
実質サミンの記憶があるかどうかの分岐
3.連れているのがレジィかリリシュカか
頂上に行くためにはレジィかリリシュカかどちらかが必須。
リリシュカは初ループでは同行者にできない。
4.記憶の回収率が一定以上で開くルートを通る
リリシュカは鍵を壊そうとするが、このルートを通るときのみ鍵残しが可能。
5.真ENDのフラグを立てる TrueEnd用
//時計塔の頂上は、ちょうど時計盤の裏側にあたる。
巨大な底の見えない吹き抜けに、足場だけがある。
END1 灰色
条件:鍵壊れ、サミンなし、レジィ
頂上で待っていたのは、時計塔の主だった。 しかし様子がおかしい。
「もう全部手遅れなんだよ!アハッハハハ……」
すでに時計塔の主は塔に紛れ込んでいた悪魔に乗っ取られていた。
レジィの真の目的は、時計塔の主の殺害だった。
仕方ない。レジィが呟くと、ためらいなく時計塔の主を射殺する。
エナは結局、何も思い出せなかった。
忘れていたほうがいいとレジィは告げ、ミンディアから去っていた。
(初回ループを想定したEND)
END2 破滅
条件:鍵あり、サミンなし、レジィ
頂上で待っていたのは、時計塔の主だった。
間に合った…! そう思うもつかの間、魔術が暴走を始める。
「時巡り」が実行されなかったがゆえに行先を無くした魔力が溢れ、大厄災を招こうとしていた。
無言で銃を取り出すレジィ。しかし射線にとっさにエナが入る。 「エナ…」
銃弾を受けたエナはよろつきながら時計塔の主を抱きしめ、世界は光で包まれる――
(初回ループを想定したEND2)
END3 悪魔
条件:鍵壊れ、サミンあり、レジィ
頂上で待っていたのはディーヴァだった。 久しぶりだね……。
ディーヴァに駆け寄ろうとするエナたちを引き留めるレジィ。
「そいつはもう悪魔に乗っ取られているかもしれない」
それでも、とディーヴァに詰め寄るサミン。
あんたが今どうなっちゃってるかはわからない。でもね、私、言いたいことがたくさんあるの!まずは、ええと……ごめ
言いかけたサミンの腹を、ディーヴァの腕が貫いた。
レジィが銃を構えるも、ディーヴァ、もといマクスウェルの魔術が弾く。
「テメェが時間を稼いでくれたおかげで体がよーく馴染んだよ、ありがとな!」
嘲笑いながらマクスウェルは飛び立っていく――
ミンディアの外の、ある日の新聞。
国1つが滅ぼされたというそのニュースには、
ディーヴァの姿をした悪魔が、燃える街をぼんやりと見下ろしている写真が載せられていた。
END4 サミンの償い
条件:鍵あり、サミンあり、レジィ
頂上にいたのはディーヴァだった。
間に合った…! そう思うもつかの間、魔術が暴走を始める。
「時巡り」が実行されなかったがゆえに行先を無くした魔力が溢れ、大厄災を招こうとしていた。
ディーヴァは自身を犠牲に時巡りの魔術を終わらせることを選択する。
「せっかく会えたのに…!」
悔しがるサミン。俯くエナを見て、サミンは一つの決断を下す。
サミンの体には生まれつき怪力の魔術が刻み込まれている。
その怪力の魔術に、溢れた魔力を流し込めという。
怪力の魔術を常時発動すれば、魔力を消費し続けることはできる。
発動する魔術に引かれて魔力は留まるだろう。
しかし莫大な量の魔力を人の身で受ければ、変質は免れない。
それでもいい。これが、エナやジルヴェに何もできなかった、ディーヴァを傷付けた、償いになるのなら……。
エナは夢を見る。子供のころの2人が遊んでいる夢だ。
いつも通り追いかけっこしていると、サミンが立ち止まる。
「私いかなきゃ! エナ、またね!」と、たった一人で遠いどこかへ去っていった。
END5 リリシュカという女
条件:鍵壊れ、サミンなし、リリシュカ
頂上で待っていたのは、ディーヴァだった。 しかし様子がおかしい。
「もう全部手遅れなんだよ!アハッハハハ……」
すでにディーヴァは塔に紛れ込んでいたマクスウェルに乗っ取られていた。
リリシュカはエナの首元にそっと剣をあてる。
もし一歩でも動けばこの子の命はありません。どうしますか、ディーヴァさん。
おいおい見えないのか、俺はもうディーヴァじゃない――。
そう言いかけたマクスウェルが苦しみ始める。
「エナを放せ!」その隙に、リリシュカが魔術でディーヴァの体ごとマクスウェルを殺した。
成り立てだとこういう手が使えるからいいですね!と死体を前に意気揚々と語るリリシュカ。
エナは、ディーヴァの死体にふらついた足取りで歩み寄る。
「私をここに連れてきた時点で、覚悟は済んでいるものと思っていたのですが……」
仕方ないですねと2人を残して、塔から去るリリシュカ。
田舎道をリリシュカは行く。 担いでいるのはレジィの死体。
あんな塔で死ぬなんて努力不足ですね。でも安心してください、あなたの肉体で次の悪魔を釣ります!
笑いながら、曇り空の下を歩む。
END6 ジルヴェの詩
条件:鍵あり、サミンなし、リリシュカ
頂上にいたのはディーヴァだった。
間に合った…! そう思うもつかの間、魔術が暴走を始める。
「時巡り」が実行されなかったがゆえに行先を無くした魔力が溢れ、大厄災を招こうとしていた。
ディーヴァが必死に魔力を抑えつけようとするもどうにもならない。
困りましたね。どうします?エナさん。
リリシュカのあまりに余裕綽々な態度に慄くエナ。
するとレジィが血だらけで現れた。銃も何も持っていない。
謀ったなリリシュカ……!
怒り狂うレジィに、私はなにもしてません、「毎回」助けていたのに気づきもしない弟子に嫌気は差しましたけどね、と淡々と告げる。
こうなったら私でも止められません。
そう言われたレジィはため息をついたあと、エナに代わってディーヴァを――兄を抱きしめる。
そして魔術で空間を歪ませ、開いた時空の穴へ飛び込んでしまった。
エナが止める間もなく2人は消えてしまう。
いざという時のために用意していた切り札。
時計塔の主ごと時空の歪みに飛び込むという方法は、死以外で魔術を中断するにはうってつけだ。
しかし二度と戻れない。
どうしてこんなことになったんだか、と独りごちるレジィ。
ディーヴァは無理が祟って息も絶え絶えになっていた。
最期くらいは傍にいてやるかと、ジルヴェは兄の隣に腰掛ける――
END7 魔女かもしれない
条件:鍵壊れ、サミンあり、リリシュカ
頂上に行く前。 リリシュカはエナに隠れてサミンを呼び止める。
子犬のようについてくるサミンを刺殺するリリシュカ。
あなたのこと、気に入らなかったんですよね……。
「足にケガをした」サミンを置いて、頂上に向かう二人。
頂上で待っていたのは、ディーヴァだった。 しかし様子がおかしい。
「もう全部手遅れなんだよ!アハッハハハ……」
すでにディーヴァは塔に紛れ込んでいたマクスウェルに乗っ取られていた。
マクスウェルを睨みつけるエナ。
しかしマクスウェルは、おいおいおい、後ろにいる本物の悪魔はいいのかと語る。
「俺はお前がなあ、怪力っ子をぶっ殺したって知ってんだよ!なにしろ主様だからなぁ!」
マクスウェルの指摘を受けて即座にエナを殺そうとするリリシュカ。
しかしマクスウェルのほうが早く、リリシュカを吹きとばす。
時計塔の底のない吹き抜けへ落ちていくリリシュカ。
立ち尽くすエナに、マクスウェルはレジィが持っていた銃を見せた。
あのレジィって男もディーヴァを殺す気だったんだ。まったく魔術師協会ってヤツはろくでもないな。
どうだ? 怪力っ子の仇を討ちたくないか?
もし俺と契約したら力をやる。体をくれるなら、ディーヴァを解放したっていいぜ!
エナは笑って、マクスウェルに近づいた。
そしてその腹に――ナイフを突き立てた。
エナは知っていた。何度も繰り返した果てに、マクスウェルという悪魔もまた信用ならないことも。
何度も繰り返してもディーヴァは助からない。ならばいっそ――
倒れるマクスウェル。エナは、その頭に手を伸ばす。
ミンディアの外の、ある日の新聞。
薔薇で埋め尽くされる街。恐ろしい魔女がこの地にやってくる。
魔術師協会が魔術師を集めるも、薔薇の津波には誰もかなわない。
悪魔を食った魔女エナが全てを薙ぎ払う――
ワン。
どこかで、犬の鳴き声がした。そんな悪夢は、時が巡るとともに、可能性の彼方へ消えていった。
END8 時巡り
条件:鍵あり、サミンあり、記憶の回収率が一定以上で開くルートを通る(レジィ、リリシュカ両方可)
ディーヴァは思い出していた。
ディーヴァにとっての唯一の話し相手は、マクスウェルという悪魔だった。
時計塔の頂上。
マクスウェルが、こんな辛気臭いことしてないで暴れ回ればいいのによぉと一方的に話しかける。
そんなマクスウェルに、ディーヴァが重い口を開いた。
君が望むなら、この体を譲ってもいい。
だけど、今わかったんだ。僕が本当は、どうすべきなのか――
>リリシュカがサミンを衝動的に殺すことなく 頂上に辿り着いた3人。
そこではディーヴァが待っていた。
ディーヴァは「時巡り」を実行しようとしているという。
ダメよ!時巡りって絶対失敗するんだからと叫ぶサミン。
ディーヴァは、成功する、信じてほしいと強く言った。
これでみんなが幸せになれる結末を迎えられる。
>ディーヴァの発言を疑いつつも、意志を尊重するレジィ。
>リリシュカも時計塔の主を殺す気だったが、悪魔もいないし、こんな展開初めてですからと傍観する。
エナはディーヴァを信じ、祈りを「託した」。
光り輝く世界。その中で、悪魔マクスウェルだけが光に背を向けた。
――目が緑色になる病「緑目病」を患ったエナは、ミンディアの縁者を頼り、両親とともに街の住民となる。
幼馴染は、明るい少女サミンと泣き虫のジルヴェ。
3人の子供たちは仲睦まじく森の中を駆け回っていた。
そうしているうちに、エナの緑目が治っていた。一時的なものだったのだろう。
黒い獣がどうのこうのと言っていたときは焦ったが、きっと森の動物を見間違えただけだ。
エナの両親は安堵する。
そんなある日、ジルヴェは母カナンとともにミンディアの外に出ていってしまった。
町長は怒るものの追手を差し向けるほどのことでもない。
サミンの父はこっそりジルヴェからの手紙をエナとサミンに渡し続けた。
黒い病がやってきて、住民たちが大勢亡くなってしまった。
エナの両親もまた病に倒れてしまう。
医者のリリシュカが手を尽くしたが、どうにもならなかった。
……リリシュカはなぜか、エナをよく見つめていた。
エナがかつて緑色の目をしていたことから、黒い病はエナのせいではないかと口さがない噂を流す者がいた。
ほとんどの住民は、エナの両親がよくエナを庇っていたこともあり、むしろ慰めてすらいる。
しかしエナは、元々ミンディアの外に興味があったこともあり、サミンとともに街の外で暮らす決意をした。
ミンディアから出ていく日。ふと、時計塔を見ると、猛烈な喪失感に襲われた。
いつまでも止まったままの時計塔。 この気持ちはなんなのだろう。
――そうだ。きっと何か、とても大切なことを忘れている。
とても大切だった誰かを――
ワン。 どこかで、犬の鳴き声がした。
TrueEnd また会う日まで
条件:鍵あり、サミンあり、レジィ 真ENDフラグあり
第3階層で見つけた、封じられた記憶。
それは、ディーヴァが町長たちを皆殺しにした瞬間の記憶だった。
記憶を解放した瞬間、トラウマを想起したのか時計塔が暴走を始めてしまう。
崩れていく塔。 しかしエナは1人でもディーヴァのもとに辿り着こうとする。
サミンがエナを引き留めるも意志は固い。
エナはサミンをレジィに任せて、1人で時計塔の奥を目指す。
レジィは呆れるも、この塔はお前のことだけは傷つけられない、お前なら何とかなるかもしれないとエナに後を託した。
レジィとサミンは崩落しつつある塔から抜け出そうとするも、瓦礫が降り注ぐ。
その瓦礫を弾いたのは、見えざる障壁。 「ババア、居たのかよ」
2人を遠くから見つめるリリシュカ。エナのほうを一瞥して、黙したまま塔から降りていった。
エナは最奥、時計塔の底に辿り着く。
吹き抜けの先の深い深い底には光も通らない。
――無駄なんだよ、お前のしていることは! お前も俺とおんなじになるんだ、アハッハハハ……
聞こえてくる悪魔マクスウェルの嘲りを無視して、闇の中を進み続ける。
すると、どこかへ向かうカナンの姿があった。
エナを先導するかのような後ろ姿についていくとエナの家が現れる。
確かにあった温かな家。
部屋の中心にある扉を開くと、どこまでも星の道が続いていた。
その先に待っていたのは、使い魔の犬を連れたエナと生き写しの女性。
女性が扉を作りだす。 導かれるまま、エナは扉を開けた。
扉の先にいたのはディーヴァだった。
しかしその体には魔力の鎖が絡みついている。
鎖の先にあるのは時計盤、時計塔とのつながりがある以上彼を連れ出すのは不可能だった。
エナを頑なに逃がそうとするディーヴァ。 しかし2人の耳に声が届く。
その力を、時巡りを、「私」に使って――
幼い声は時計盤からのものだった。
「時巡りの塔」が崩れたことにより、「本来の時計塔」の意志が表に現れていた。
ディーヴァとエナは、意を決して時巡りを使う。
時が巡るように唱え、時が巡るように託した。
――エナは夢を見ていた。
カナンそっくりの少女が、犬を連れて遊んでいる夢だ。
犬は後からやってきた、エナとそっくりの女性に飛びつく。
そしてお礼を言うかのように、ワン!と一吠えした――
目覚めたとき、エナはベットに横たわっていた。 時が巡った様子はない。
時巡りの塔は無くなり、時計塔だけが残されていた。
まるで変らぬ未来を望んだかのように。
エナの目覚めに気づいたサミンが嬉しそうに笑う。
エナ、あんたやったのよ!
生き残ったミンディアの住民たちは、かろうじて残った家で生活していた。
時計塔に取り込まれた人たちも、心に深い傷を負ったものもいたものの、家族の元へ戻ってきていた。
しかし時計塔は力を失い、もう隠れ住むことはできない。
狩人たちや街の大人たちは、ミンディアの外に全てを明かすつもりだという。
レジィは、サミンの父の出す馬車に乗る直前だった。
魔術師協会に報告するのだという。
先に声かけときなさいよ!と怒るサミンに、いいじゃねえか、どうせそのうち会えるんだと軽口を叩く。
またな、と手を振るレジィ。
それにしてもアイツちょっとジルヴェに似てるわよね。と呟くサミンから、エナは目を逸らした。
ディーヴァの姿はどこにもなかった。
残されていたのは、エナへの手紙だけ。
償わなければならない人たちがいる。ディーヴァは犠牲者たちの遺族へ真実を伝え、遺品を渡すための旅に出るのだという。
それは責務としてではなく、自分のやりたいことだから。
「もう大丈夫。全てが終わったら必ず、エナに会いに行きます」
ディーヴァは体は魔力によって変質し、半ば半竜人のような姿になっていたが、日の当たる道を歩いていく。
エナは旅立ちの準備をしていた。
サミンとともにミンディアの外で暮らすつもりだったが、こうなった以上、ディーヴァを追いかけることにしたのだ。
エナのことをわかっていないディーヴァにも、諦めが悪いエナにも呆れるサミン。
もうこうなったらどこまでも追いかけなさい!帰る場所は私が作っとくから!
サミンに背中を押され、エナは旅立つ。
鳴り響く時計塔の鐘の音。 ふと、時計塔を見ると、時計の針が進んでいた。
動き出した時を祝福するかのように――
【真実】
END後など、条件を満たすと解放される特殊情報。
おおよそ解放順に並べています。 ※資料中にない情報も適宜補足します。
『サミンの真実』
ジルヴェを逃がすためにサミンの父が馬車を走らせた、次の日。
狩人たちはサミンの父がジルヴェを逃がしたのではないかと疑いをかけていた。
ジルヴェのことは荷物に紛れ込ませて運んでいたが、箱の中にはよだれの痕跡が残ってしまっていた。
このまま丁寧に検分されたらバレてしまう。きっと昨夜の運び先から行方がわかってしまうに違いない。
「あ、これサミンが欲しかったお人形だー!」
そんな一触即発な雰囲気にサミンは割り込み、のんきにはしゃぎ回った。
狩人たちは虚を突かれて、気が抜けて、軽く荷物に目を通すだけで済ませた。
サミンの父は娘の奔放さに呆れつつ、心から深く感謝した。
これがなければ、おそらくジルヴェは追われていただろう……。
※補足:サミンが塔の中でも姿を保てているのは、
塔に巻き込まれないようディーヴァが隔離していたから。
『レジィの真実』
はっきりとわかったことがある。
ミンディアは……あまりにも、時代から隔たっていた。
もはや魔術で列車が走る世界で、狩人がなんの役に立つだろうか。
ご自慢の時計塔ですら近年の魔術師が作り上げたものだ。
行方不明になった魔術師を探して、ミンディア周辺にも調査が入りつつある。
いずれミンディアという小さな世界は瓦解するだろう。
だから時巡りの塔の話が出たとき、自分が調査すると言い出した。
別に下らない責任感に動かされたわけじゃない。
ただ、部外者に好き勝手言われることが許せなかったのだ。
※レジィ(ジルヴェ)が時計塔に入れたのは縁者だったから。
サミン、カナンはどちらも塔の一部である(ディーヴァが無意識に姿を保てるよう守っている)
リリシュカは力ずくで割り込んでいる。
【時計塔の真実】
さも古代からあるもののようにミンディアの住民は扱っているが、
実際は30年くらい前に建てられたもの。
時計塔そのものが魔術で織り上がっており、魔力を注ぎ込むことで機能する。
『昔話の真実』
街の外からやってきた、異端の人々を守ろうとする偉大な魔法使いがいた。
吸い込まれるような「緑色の目」をした彼女は、日夜協力して巨大な時計塔を作り上げる。
これがあれば、みなを守ることができるだろう!
しかし、魔法使いに裏切られることを恐れた人々は、嵐の日、彼女を殺してしまう。
これで安泰だと喜んだのも束の間、彼女の使い魔だった黒い犬が襲いかかってきた。
されどただの犬、殴ればあっさり頭が割れた。
蘇らないよう両名とも全身を砕く。動き出すこともない。
なんだ、魔法使いなんて口ほどにもないじゃないか……。
けれど彼女たちを埋めたその日から、黒い犬が目撃されるようになった。
こちらをずっと見つめる、黒い獣。
傷だらけの獣。追いかけても消えてしまう獣。 あの女の祟りだ。
誰かがそう口にした。
そして一人、子供が行方不明になった。
それから黒い獣が見かけられることはなかった。
人々は、恐怖に落ちたままだった。 だから過去を作ることにした。
魔法使いの仲間が来た時に、言い訳できるように。
犯した罪を、なかったことにするために。
魔法使いを悼むことさえなく、良い女神の役と悪い魔女の役、死してなお二つに分けて……。
だからこれは、「昔話」ではない。
※補足※
この出来事があったのはカナンが子供だったころ、つまり一世代前のこと。
本当に昔話でも何でもない。 行方不明になったのはカナンの姉、ネル。
【緑目病の真実】
目が緑色になる、たったそれだけの病。 特別なことは何一つない。
ミンディアの外でもありふれているし、エメラルドグリーンの美しさから治療しない者さえいる。
魔法使いの彼女は魔力が多かったから緑眼だった、キレイだったからそのままにした。
ミンディアの住民が勝手に恐れた。 それだけ。
『エナの母の真実』
女は、ミンディアを捨てるつもりだった。
魔法使いを殺したことが露見することを恐れ、街の外で生きるつもりだった。
けれど娘が緑目病に患い、あの魔法使いそっくりの容姿になったとき、彼女はぞっとした。
鏡に映った娘の姿が、あの日あの時の魔法使いの死体と重なった。
もしかしたらエナはあの魔法使いの生まれ変わりかもしれない。放っておいたら真実をバラされるかもしれない。
そんな強迫観念めいた「かもしれない」の末、ミンディアに戻り監視も兼ねて育てることにした。
女の悲劇は夫が死んでから始まった。
夫頼りだった彼女には稼ぎを得る方法がなかった。
緑眼のエナがいる家を慮る人もいない。
そんなとき、村の勇士に倉庫の整理を手伝ってくれないかと持ちかけられた。
街でも評判の良い好人物だったのでなんの疑いもなく彼女は向かった。
そうして女は壊れた。
黒い病に伏した彼女の死体、その服の下にはおびただしい数の痣があったという。
もし彼女がエナの緑眼を気にしなければ、幸せに街の外で暮らせただろう。
けれど、その呪いは消えることはない――
『ネルの真実』
魔法使いが殺された後日、カナンの姉ネルは黒い獣と出会う。
ネルは黒い獣、もとい魔法使いの使い魔の犬には敵意がないこと、そして助けを求めていることに気づいた。
使い魔の犬は主が殺されてもなお、幽霊になってなお、役割を――人々のために時計塔を守るという役割を果たそうとしていた。
実は、まだ時計塔は起動できていなかったのだ。
いざ動かそうとしたその前日に魔法使いは殺されてしまった。
だから使い魔の犬は、魔法使いの代わりに、時計塔を起動するための魔力を注いでくれる人を探していた。
ネルは魔力を持ってない。
だが犬のため、そして優しくしてくれた魔法使いのお姉さんのため、決意する。
自らの命を魔力に変えて時計塔を動かすと。
だけどネルは、街の人々のことはだいっきらいだった。
お姉さんを殺したあんな奴らをのうのうと喜ばせて、ありがとうネル!だなんて言われるのはごめんだと思った。
だから絶対何も言わない。
私が行方をくらましたら、きっとさぞ慌てふためくことだろう。
だけど妹のカナンことだけは大好きだった。
だから「私はカナンのそばで生き続けるよ」と手紙を残して、犬とともに時計塔へ消えた。
※ネルは時計塔の中にもどこにもいない。
ネルの魂はもはや時計塔と一体化している。
『カナンの真実』
夫と出会ったのは、ネルを偲んで時計塔に花を添えていたときだった。
後ろをはたと振り向けば、狩人だった彼と目があった。
どこか気まずそうにしていたことが、不思議とずっと心に残っている。
狩人との縁談話が持ち上がったとき、両親は笑みを浮かべながら気まずそうにしていた。
優れた狩人の血をいただく名誉。 娘に、人でないものを宛がう罪。
そんな……そんな下らない因習に駆られた、媚びへつらう笑みを、見たくはなかった。
夫を連れて散歩した日のことを覚えている。
婚前にのみ許された僅かな時間。
人気のない野原に出たとき、彼はすっと花を手折って私の髪に挿したのだ。
どうしてそんなことをしてくれたのか、今でもわからない。
最初で最後の規則破りだった。 それでも一つだけ、はっきりと言える。
「彼の心にも温かな光は宿っていた」
あの日手折られた花は、今でも私の心に咲き続けている。
※カナンが姉ネルの痕跡を探していたのは、
時計塔にネルが何らかの形でかかわっており、
このループを打破する手がかりがあるかもしれないと思ったから。
『エナの真実』
エナが子供のころ、黒い獣と出会った日。
ネルが子供だったこともあり、時計塔の魔力はすでに尽きかけていた。
助けを求めて外に出た使い魔の犬が見たのは、かつての主と生き写しの少女エナ。
またご主人に会えた! 嬉しくなってじゃれつこうとした。
ところがエナは失神してしまったうえ、少年に、ディーヴァに割り込まれた。
「エナを連れていくなら俺を連れていけ!」
犬はほとほと困り果てたが、ほかの2人と違ってギリギリ自分の姿が見えているし、この子でいっか!
ネルが起動させてくれたおかげで、この子からこぼれる魔力だけでも十分まかなえそう。
だから犬は、ディーヴァを魔力源として時計塔と結びつけた。
これで明日も明後日も時計塔は動き続けるだろう。やった!
しかし時計塔という魔術と結びつけられた副作用で、ディーヴァは魔術が見えるようになってしまった。
普通の人間ならば、ちょっと得するだけの能力。
それがとてつもない悲劇を招くことになるとは、犬には知る由もなかったのである。
『リリシュカの真実』
緑眼の魔法使いと言われた女がいた。 彼女はリリシュカと正反対だった。
規約を平然と破る問題児。
いつも明るく振る舞い、リリシュカにさえニコニコと笑いかけた。
ミンディアの愚かな人々も救おうとした。
その結果があのザマか。 暗い感情がどんよりと心を満たす。
……なのになぜ、私と似ているあの少女は、あの女と同じ目をしている?
「惨めに死ぬ」そういう運命ですら受け入れる目をしている?
あの目を、あのエメラルドグリーンを見ていると、心がざわつくのだ。
お前は愚かだ、お前は空白なのだと、問い詰められているような、そんな気が、してしまって……。
※リリシュカは過去にミンディアに黒い病を診に来ている。
これは魔術師協会からの指示によるもので特に企みなどはない。
ジルヴェは関与を疑っていたが、正真正銘シロである。
ちなみにリリシュカはサミンに慕われているが、リリシュカはサミンを疎んでいる。
『マクスウェルの真実』
マクスウェルという名の男がいた。
悪魔を研究する変わり者で、とても思い込みの激しい性格だったため、学者仲間から避けられていた。
そんなマクスウェルにも優しくした女性がいた。身も心も清らかな美しい女性。
マクスウェルは女慣れしていなかったため、きっと自分に惚れているのだと思い込み、いつも話しかけられるのをうきうきと待っていた。
少々、痛い男だった。
そんな清らかな女に彼氏ができた。
マクスウェルはとてもショックだったが、3か月寝込む程度で済んだ。
そんな清らかな女が殺された。 マクスウェルは、愕然とした。
彼氏にお前のせいだと問い詰めたら、あの引きこもりがこんなに動くなんておかしいと言って、マクスウェルが悪魔をけしかけたなんて言いふらした。
そんな噂、もちろん調査していた者たちは信じなかった。
マクスウェルに困り果てていた教授すら信じなかった。
マクスウェル当人を除いては。 俺の中の悪魔が、やってしまったんだ……。
ある日、教授がマクスウェルの研究室を覗くと、部屋中に「悪魔殺すべし」と描かれていた。
マクスウェルの体が、天井からだらんと吊り下がる。
マクスウェルは首を吊って死んでいた。
それからだ。黒い悪魔の目撃情報が出たのは。
「マクスウェルが本当に悪魔になった!」
噂は風のごとく駆け回り、ついには決定的な出来事が起こる。
彼氏と真犯人が、全身を引きちぎられた状態で発見された――
されど死者は動かない。動かないのだ。
マクスウェルという男は、あの日あの時あの場で首を吊って死んだ。蘇らない。
「黒い悪魔」の目撃情報は真犯人が逃げ回っていただけ。
けれど死を悼まない面白半分の野次馬が、本物の悪魔を作り上げてしまった。
マクスウェルという悪魔がいた。マクスウェルという男から生まれた悪魔。
彼は何も見てはいないし、何も感じない。
感情の残り香だけで人のふりをしている――
『ディーヴァの真実』
時巡りの秘術。それは普通ならば絶対に完成しない魔術だった。
人の身で唱えるにはあまりにも魔力が足りない。
しかし、彼と結びついた時計塔の魔術が不可能を可能にした。
人々を守ってきた時を操る機能が、時の制御を補い、演算機となり、一つの巨大魔術構造物を創造する。
時計塔と一体となり、歪む時から魔力を吸い上げ、新たに生まれた魔術。
「それ」そのものが実行されつつある時巡りの秘術。
それが時巡りの塔だ。
けれども実は、時計塔の主は使い魔の犬のままだった。
だからディーヴァが魔術を完成させても、時を巡るのはディーヴァではなく犬だった。
犬は塔ができてからというもの、ずっと同じ時をぐるぐる巡り続けていた。
時巡りは一度完成してしまえば、もう満足するまで延々と繰り返してしまうのだ。
なんだか変なことになってしまったぞ。
しかし犬の身ではどうにもならない。
犬は困った顔をして、この事態をなんとかできそうな、ある少女に塔の力を「託す」ことにした。
かつての主の面影がある少女、エナへ――
かくしてエナは時巡り<ループ>する。
【補足】
全体
- だいたい3~4年前ぐらいに書いてたもの。(2年前?)
ゲーム本編ではなく周辺の設定資料ばかり揃っている状態だった。
設定資料ってまとめるの楽しいから……。
本当は本編の資料もあればよかったんだけど、なかったので、中抜けのまま載せる。 - ・魔力のややこしさとか名前のややこしさとかガバいところが沢山ある。
カナンとサミン、似すぎ。 塔30年前って無理ない?とは思うものの、
「古びた時計塔だ~歴史があるな~昔話あるな~と思わせておいてからの、実は全部嘘」的な展開がやりたかった。
もうちょっと理由付けをがんばったほうがいいと思う。
ゲーム中
- 時計塔の中に取り込まれた人とは話せて、そこで過去のこともわかる予定だった
良心的な人たちはかわいい犬タイプのコボルトになってたりするけど、一部はエラいことになってたりする。
TrueEnd後では生者は普通に帰ってくる(忘れてたけど) - ディーヴァとジルヴェの一人称が幼少期では違っていたりと、ミスリード要素が結構ある。
プレイヤーに兄弟を取り違えさせたりとかを狙っていた。小癪。
大きなミスリードは悪魔マクスウェルの存在で、
ゲーム中ではいかにも全ての元凶っぽくフカしている。
マクスウェルを倒すぞ!→これこいつがそう言い張ってるだけでは?→ミンディアって因習村では?
と記憶を解放するにつれて真実がわかるようにする予定だった。 - プレイヤーががっつり時計塔を探索しようとすると、まずエナ・サミン・レジィの3人組になる。
道中で会話ができるようにして、幼馴染トリオという印象を植え付けるつもりだった。
レジィは設定解説役でもあるので本編では出番が多くなるはずだったが、
結局設定資料しか作らなかったっていう。 - リリシュカが好き放題やりすぎだけれど、彼女はお助けキャラみたいな立ち位置で、
そこでプレイヤーからの好感度を稼ぐつもりだった。
ある程度ゲームを進めたら会えるようにして、
レジィより鍵開けに制限がなかったり、強制イベが無くなったりと、厄介な3階層の探索を楽にする存在として登場する。
ただしレジィと違って容赦0で鍵壊したりサミンを道中でもうっかりしようとしたりループ認識発言したりと、
たまたま敵に回らなかっただけの人ではあるので、
そこでレジィと使い分けの必要性を出す予定だった。なんだこの人。 - マクスウェルは反対に、設定資料だと出番は多いけど、ゲーム本篇ではほとんど出番はない。
非乗っ取りENDのときは、頂上前で姿を隠して煽ってくるのみ。
(ちなみにマクスウェルは昔ながらの、エクソシストとかに倒される感じの悪魔を想定してた) - すっかり忘れてたけど、ディーヴァは結局助かっても半竜人みたいになっちゃうんだよね。
だからエナの前から去った節があって(忘れてたけど)
大団円すぎるからとこういうの足すあたり癖だけど、今思い返すと、それでも大団円エンドだなあ…とは思う。
今書いたら結末も変わっていたかもしれない。そう考えるとオチは考えてくれてた自分に感謝かも。