【没】ぷろしん2話序文

没ったー

[*]1999年、日本で爆発的に増加した存在「特異」
その対応にあたる団体は、
大きく3つに分けられる。

[*]
その1。自衛隊。
大規模特異災害発生時に出動する、日本の最終防衛線。
対特異に特化した部隊SMRI(通称サムライ)が存在する。

[*]
その2。警察。
人間が主体となり特異を用いる特異犯罪を取り締まる。
特異法違反者を捕縛する対ヴィラン隊は苛烈さで有名だ。

[*]
その3。衛遊士。
自然発生した一般特異に対処する。
資格取得のハードルの低さからその数も多い。

[*]
衛遊署に勤める公的な衛遊士のほか、事務所を構える者もいる。
妖怪といった古来特異も彼らの管轄。
特に怪人に特化した衛遊士は「ヒーロー」と呼ばれている――

[???]
しかし年々の怪人の弱体化に従って、
衛遊士の練度も下がってきていました。

[???]
ヒーローとしての一面が形骸化し、
実績を得るために弱い怪人を互いに奪い合う始末。
子どもたちの将来の夢1位の座も警察に取られてしまう。

[瀬戸校長]
そんな流れを、あるヒーローが止めました。
誰も敵わなかった謎の来訪者「ドラベッラ」。
彼女と戦い続けた最も偉大なヒーロー「光雅」――

[瀬戸校長]
光雅の中の人、生瀬宏斗さん。
あなたとこうして出会えて、本当に光栄です。

[*]
3か月前
2023年4月 来春

校長室にて

[瀬戸校長]
まさかこんな御縁ができるとは思いませんでした。
それだけに留まらず、こんな依頼まで受けていただけるとは。
人生何があるかわからないものです。

[宏斗]
お礼を言いたいのはこちらの方です。
校内を好きに調べていいなんて……
ここまで気を遣っていただき感謝しています。

[瀬戸校長]
私の依頼にも沽券にも関わることですから。
本当は特別講師としてお招きしたかったのですよ?
普通のヒーローとして迎えなればならないなんて――

[瀬戸校長]
クッ悔しい!!
朝礼で秘蔵の光雅戦歴VTRを流すのが夢だったのに!
花アーチ作ってVIP待遇のお出迎えも出来ないなんて!

[宏斗]
お、お気持ちはありがたいですが、
普通の待遇のほうが気が楽――

[瀬戸校長]
ああッこちらの羊羹をどうぞ!
この日のために用意した最高級羊羹ですので。
店主が素材を選び抜いた至高の一品、ぜひ食していただきたく。

[瀬戸校長]
ぜひ! ぜひに!!
ぜひ生瀬さんに食していただきたく!!

[宏斗]
(あ、圧が凄い!!)

[瀬戸校長]
私にとって、ヒーロー光雅は憧れなのですよ。
ヒーローへの緩やかな失望は払拭され、
“諦めていた者”に可能性まで与えた。

[瀬戸校長]
長年願いつづけてきたヒーロー養成校。
道半ばで頓挫しかけた夢がもう一度息を吹き返したのは、
あなたの活躍のおかげです。

[宏斗]
……。

[瀬戸校長]
おおっとそうでした、
羊羹の前に依頼の説明をしなければ!

[瀬戸校長]
といっても、ほとんど先日お話した通りなのですが――
校内に異変が起きていないか、調べていただきたいのです。

[宏斗]
校内で起きている「特異事件」の調査ですね。
本来発生しないはずの
特異の目撃情報が出ている。

[瀬戸校長]
本校「有鳴青星高校」でも時々特異は発生しますが、
そのほとんどは怪人です。
ヒーロー養成校という「定義」がある以上、その分布は偏ります。

[瀬戸校長]
ヒーローと妖怪は、物語としてはアツい組み合わせですが、
イメージとしては違う世界の存在ですから。
雰囲気に合わない場所では、他の特異は現れ難い。

[瀬戸校長]
しかし、わが校は屈指の高Am値の土地。
実践学習のためとはいえ特異スポットでありますから、
定番の特異がどうしても発生します。


[宏斗]「トイレの花子さん」などですね。子どもたちの多い場所は特異が成りやすいと聞きます。馴染みの深い怪談は特に具現しやすいと。

[瀬戸校長]
こればかりは対策しようにも、
子どもたちの好奇心には勝ちようがありません。

[瀬戸校長]
そこで我が校ではあえて自分たちから七不思議を流し、
無害なものが具現するようコントロールしてきました。
恋占いとファッションのアドバイスをしてくれる花子さんとか。

[宏斗]
(女子力の高い花子さんだ)

[瀬戸校長]
しかしここ最近、私たちのものでない、
“もう一つの七不思議”の噂が流れ始めたのです。

[瀬戸校長]
その名も――「裏・有鳴青星高校七不思議」!

[*]
――曰く。

[*]
曰く、お堂のミイラが泣き喚く
曰く、ほっきょくうさぎが立ち上がる
曰く、彷徨う模型が闇に引き込む

[*]
曰く、かーみらさんが鏡から現われる
曰く、ゆうれい女が一人加わる
曰く、ピアノが一人すすり泣く

[瀬戸校長]
最後は「消えた女生徒」でしたか。
いやあ~これは”あの事件”から創られた噂でしょうが。

[宏斗]
(……。)

[瀬戸校長]
本来、このような噂はすぐに消えるはずなのです。
子どもたちというものは現金ですから、
姿形のない噂より実在する七不思議のほうを好みます。

[瀬戸校長]
これまでも、真・有鳴青星高校七不思議や、
超・有鳴青星高校七不思議がありましたが、
あっという間に飽きられていましたからね。

[宏斗]
(計28個もあったのか、有鳴青星高校七不思議)

[瀬戸校長]
しかし裏七不思議は、先に目撃証言があったのです。
最初は学生たちの悪ふざけかと思いましたが、
裏七不思議を知らなかった子も多くおりました。

[瀬戸校長]
これは明らかにヘンなのです!
裏七不思議はオカルト好きの生徒が広めていたようですが、
学園中に広まりでもしない限り、具現にはまず至りません。

[瀬戸校長]
生徒が私たちに教えなかっただけで、
秘密裏に広まっていた可能性はありますが……。

[宏斗]
七不思議が目撃されること。
校内中に噂が定着すること。
どちらかが「前」に無ければ、この事態は起きえない。

[宏斗]
俺の役割は、七不思議の発生場所を特定し、
可能であれば特異に対処する。
そして――噂の原因を見つけること、ですね。

[瀬戸校長]
あっいや、それほど深刻な問題じゃないんですよ?
「出来心のいたずらが上手くいっちゃった!」
なんて線も十分ありえますので。

[瀬戸校長]
ただ、むやみに人を疑いたくはありませんが、
学園の者が関わっているかもしれませんから、
外部の方に助けていただきたかったのです。

[瀬戸校長]
あいにく復帰したばかりで、誰が信頼できるのかもわかりません。
しかし子どもたちの学び舎で
危険な特異を発生させるわけにもいきません。

[瀬戸校長]
事件が発生していない以上、
衛遊署にお願いするわけにもいかず、
フリーの衛遊士の方にご協力いただきたかったところ……

[瀬戸校長]
まさかあの光雅がいらしてくれるとは……。
いやあ、ほんっとうに人生何があるかわからないものですな。

[宏斗]
俺としても渡りに船だったので助かりました。
署を辞めたばかりですし、
ぜひお手伝いさせてください。

[瀬戸校長]
……あのう、もしよろしければ、
衛遊署を辞めた理由について……。

[宏斗]
……。

[瀬戸校長]
ウッすみません、プライベートなことでしたね!
失礼しました!

[宏斗]
ああいえ、気になさらないでください。
突然のことでしたし疑問に思われるのは当然だ。

[宏斗]
大した話ではありません。
自由に1から積み上げ直すために、一旦手を放したかった。
辞めた理由は本当にそんなものですよ。

[宏斗]
子どもたちをがっかりさせてしまうので、
これは内緒にしておいてほしいんですが……。

[瀬戸校長]
もちろんこの瀬戸、墓の下まで持っていく気持ちです!
なんならマントルまで突き抜けても喋りませんぞ!

[宏斗]
(地面にめり込み過ぎだ!)

[瀬戸校長]
あなたに憧れる生徒も多いんです。
素性を隠すことにはなりますが、声をかけてあげてください。
あなたの経験はヒーローとしてこれ以上ないものですから。

[宏斗]
……あ、ありがとうございます。
子どもと直接話す機会は今までありませんでしたから、
短い期間で彼らのために何が残せるか、俺なりに考えてみます。

[瀬戸校長]
って調査をお願いした側が言うセリフではなかったですね。
ハハハ……。

[宏斗]
……。

[*]
――最後は「消えた女生徒」でしたか。
いやあ~これは”あの事件”から創られた噂でしょうが。

[*]
――だから俺は、あの娘のために歌ってやったんだ。

[宏斗]

(裏七不思議の七、「消えた女生徒」。

そして"あの事件"……「女子高生消失事件」。)

[宏斗]
(お前はいったい、この高校で何をしたんだ。
何をするためにここまでやって来て、
何を成したんだ?)

[宏斗]
……SONICMAN。

[*]
わくわく! 有鳴青星高校パンフレット!

[*]
日本で唯一のヒーロー養成校、
私立有鳴青星高等学校へようこそ!
皆さんのために本校についてご説明します。

[*]
本校では、二つのコースを用意しています。
一つは、本校が誇るヒーロー養成コース。
特別プログラムを通じて、怪人を倒せる衛遊士になりましょう!

[*]
私たちは外部講師として第一線で戦うヒーローを招いています。
彼らの実践的な知識と経験を通じて、
成長に応じたカリキュラムのもと真のヒーローを目指します。

[*]
もう一つのコースは一般コース。
衛遊士取得を目指さない生徒たちにも、
優れた講師陣による豊かな学びが待っています。

[*]
衛遊士になりたい生徒のために、
特異の専門家になれる学習コースも用意しました。
全ての生徒が自分の道を見つけ、全力で歩むことができます。

[*]
私たちの目標は、
生徒一人ひとりが自分自身のヒーローになることです。
ご入学お待ちしております――

[宏斗]
(……俺は表向きは養成コースの外部講師として、
実際には、裏七不思議の調査のため動くことになる)

[宏斗]
(人員不足のため、突然の増員は疑問に思われない。
瀬戸校長の紹介という後ろ盾がある以上、
身元を無闇に疑われることもないだろう)

[宏斗]
(問題なのは……
瀬戸校長ははっきりとは言わなかったが、
裏七不思議には”前校長派”が関わっている可能性が高い)

[宏斗]
(有鳴青星高校は過去に校長の更迭が起きている。
理由は「特異を用いていたから」だ。
そして瀬戸校長が復帰した……)

[宏斗]
(内々で済ませたらしく、詳細は教えてもらえなかったが。
……裏七不思議には教師が関わってる可能性が高い。
教師陣の中で、唯一信頼できる「協力者」は、この――)

[*]
有鳴青星高校、職員室廊下

長い髪を後ろで三つ編みにした、眼鏡の女教師が立っている。

[乃宮]
ありがとうございます、生瀬さん。
はぁ~良かった!
折鶴先生が倒れてしまって、本当に困っていたんです!

[宏斗]
(乃宮ノレア先生――本年度からの新人教師だ。
教育学部で学んでいたころから、
ずっと瀬戸校長が目に掛けていたらしい)

[宏斗]
(裏七不思議の目撃された時期からしても、彼女はシロだろう。
前校長派とも関わりようがない)

[宏斗]
(……瀬戸校長が「絶対にあの子は無関係ですぞ」と
やたら熱弁していたところは、ちょっと不安だが)

[乃宮]
一般科目以外の養成コースに関わる内容は、
先日倒れられた折鶴先生のご担当だったんです。

[乃宮]
衛遊士に関わる授業には資格が必要なので、
私が代行するわけにもいかず、
資格持ちの先生は手一杯という惨状でぇ……。

[乃宮]
誰も引き受けられなかった中、手を上げてくれた。
生瀬さんはまさしくわが校の救世主なんです!
私、精一杯サポートしますから、よろしくお願いしますね!

[宏斗]
こちらこそよろしくお願いします。
といっても、授業をした経験が無いので、
拙いものになってしまうかもしれませんが。

[乃宮]
大丈夫大丈夫! ぶっちゃけ養成コース一年目の教科書って
困ってる人を助けようとか大したことしか書いてませんから!
棒読み読み上げでもまったく支障はありません!

[宏斗]
(盛大にぶっちゃけたな……)

[乃宮]
本当は外部講師の方にここまで任せることはないんです。
ちょっとその、色々あって、
人手不足らしくて、ね。

[乃宮]
……あ、あのう。

乃宮が宏斗に耳打ちする。

[乃宮]
裏七不思議のこと、調べるんですよね?
詳しくは知りませんが、
こちらからも手を回します。

[乃宮]
生瀬さんが歩き回れるよう、
クッソどうでもいい用をがんばって押し付けますから!
無から仕事を生成しますので!

[宏斗]
た、助かります。
(力強く凄いことを言われた……)

[乃宮]
校長先生へのご恩のためにも、
陰ながらサポートしますね!
早速ですが、校内の案内が必要ですよね?

[乃宮]
実は私、もう授業の準備で手一杯なので、
生徒の誰かに案内をお願いする形になるのですが――

[*]
1999年、日本で爆発的に増加した存在「特異」
その対応にあたる団体は、
大きく3つに分けられる。

[*]
その1。自衛隊。
大規模特異災害発生時に出動する、日本の最終防衛線。
対特異に特化した部隊SMRI(通称サムライ)が存在する。

[*]
その2。警察。
人間が主体となり特異を用いる特異犯罪を取り締まる。
特異法違反者を捕縛する対ヴィラン隊は苛烈さで有名だ。

[*]
その3。衛遊士。
自然発生した一般特異に対処する。
資格取得のハードルの低さからその数も多い。

[*]
衛遊署に勤める公的な衛遊士のほか、事務所を構える者もいる。
妖怪といった古来特異も彼らの管轄。
特に怪人に特化した衛遊士は「ヒーロー」と呼ばれている――

[???]
しかし年々の怪人の弱体化に従って、
衛遊士の練度も下がってきていました。

[???]
ヒーローとしての一面が形骸化し、
実績を得るために弱い怪人を互いに奪い合う始末。
子どもたちの将来の夢1位の座も警察に取られてしまう。

[瀬戸校長]
そんな流れを、あるヒーローが止めました。
誰も敵わなかった謎の”来訪者”を追い返した、
この世で最も偉大なヒーロー「光雅」――

[瀬戸校長]
光雅の中の人、生瀬宏斗さん。
あなたとこうして出会えて、本当に光栄です。

[*]
3か月前
2023年4月 来春

校長室にて

[瀬戸校長]
まさかこんな御縁ができるとは思いませんでした。
それだけに留まらず、こんな依頼まで受けていただけるとは。
人生何があるかわからないものです。

[宏斗]
お礼を言いたいのはこちらの方です。
校内を好きに調べていいなんて……
ここまで気を遣っていただき感謝しています。

[瀬戸校長]
私の依頼にも沽券にも関わることですから。
本当は特別講師としてお招きしたかったのですよ?
普通のヒーローとして迎えなればならないなんて――

[瀬戸校長]
クッ悔しい!!
朝礼で秘蔵の光雅戦歴VTRを流すのが夢だったのに!
花アーチ作ってVIP待遇のお出迎えも出来ないなんて!

[宏斗]
お、お気持ちはありがたいですが、
普通の待遇のほうが気が楽――

[瀬戸校長]
ああッこちらの羊羹をどうぞ!
この日のために用意した最高級羊羹ですので。
店主が素材を選び抜いた至高の一品、ぜひ食していただきたく。

[瀬戸校長]
ぜひ! ぜひに!!
ぜひ生瀬さんに食していただきたく!!

[宏斗]
(あ、圧が凄い!!)

[瀬戸校長]
私にとって、ヒーロー光雅は憧れなのですよ。
ヒーローへの緩やかな失望は払拭され、
“諦めていた者”に可能性まで与えた。

[瀬戸校長]
長年願いつづけてきたヒーロー養成校。
道半ばで頓挫しかけた夢がもう一度息を吹き返したのは、
あなたの活躍のおかげです。

[宏斗]
……。

[瀬戸校長]
おおっとそうでした、
羊羹の前に依頼の説明をしなければ!

[瀬戸校長]
といっても、ほとんど先日お話した通りなのですが――
校内に異変が起きていないか、調べていただきたいのです。

[宏斗]
校内で起きている「特異事件」の調査ですね。
本来発生しないはずの
特異の目撃情報が出ている。

[瀬戸校長]
本校「有鳴青星高校」でも時々特異は発生しますが、
そのほとんどは怪人です。
ヒーロー養成校という「定義」がある以上、その分布は偏ります。

[瀬戸校長]
ヒーローと妖怪は、物語としてはアツい組み合わせですが、
イメージとしては違う世界の存在ですから。
雰囲気に合わない場所では、他の特異は現れ難い。

[瀬戸校長]
しかし、わが校は屈指の高Am値の土地。
実践学習のためとはいえ特異スポットでありますから、
定番の特異がどうしても発生します。

[宏斗]
――学校の七不思議、ですね。
子どもたちの多い場所は特異が成りやすいと聞きます。
馴染みの深い「トイレの花子さん」などは特に具現しやすいと。

[瀬戸校長]
こればかりは対策しようにも、
子どもたちの好奇心には勝ちようがありません。

[瀬戸校長]
そこで我が校ではあえて自分たちから七不思議を流し、
無害なものが具現するようコントロールしてきました。
恋占いとファッションのアドバイスをしてくれる花子さんとか。

[宏斗]
(女子力の高い花子さんだ)

[瀬戸校長]
しかしここ最近、私たちのものでない、
“もう一つの七不思議”の噂が流れ始めたのです。

[瀬戸校長]
その名も――「裏・有鳴青星高校七不思議」!

[*]
――曰く。

[*]
曰く、お堂のミイラが泣き喚く
曰く、ほっきょくうさぎが立ち上がる
曰く、彷徨う模型が闇に引き込む

[*]
曰く、かーみらさんが鏡から現われる
曰く、ゆうれい女が一人加わる
曰く、ピアノが一人すすり泣く

[瀬戸校長]
最後は「消えた女生徒」でしたか。
いやあ~これは”あの事件”から創られた噂でしょうが。

[宏斗]
(……多分、俺にとって一番調べるべき七不思議は、
”これ”なんだろうな)

[瀬戸校長]
本来、このような噂はすぐに消えるはずなのです。
子どもたちというものは現金ですから、
姿形のない噂より実在する七不思議のほうを好みます。

[瀬戸校長]
これまでも、真・有鳴青星高校七不思議や、
超・有鳴青星高校七不思議がありましたが、
あっという間に飽きられていましたからね。

[宏斗]
(計28個もあったのか、有鳴青星高校七不思議)

[瀬戸校長]
しかし裏七不思議は、先に目撃証言があったのです。
最初は学生たちの悪ふざけかと思いましたが、
裏七不思議を知らなかった子も多くおりました。

[瀬戸校長]
これは明らかにヘンなのです!
裏七不思議はオカルト好きの生徒が広めていたようですが、
学園中に広まりでもしない限り、具現にはまず至りません。

[瀬戸校長]
生徒が私たちに教えなかっただけで、
秘密裏に広まっていた可能性はありますが……。

[宏斗]
七不思議が目撃されること。
校内中に噂が定着すること。
どちらかが「前」に無ければ、この事態は起きえない。

[宏斗]
俺の役割は、七不思議の発生場所を特定し、
可能であれば特異に対処する。
そして――噂の原因を見つけること、ですね。

[瀬戸校長]
あっいや、それほど深刻な問題じゃないんですよ?
「出来心のいたずらが上手くいっちゃった!」
なんて線も十分ありえますので。

[瀬戸校長]
ただ、むやみに人を疑いたくはありませんが、
学園の者が関わっているかもしれませんから、
外部の方に助けていただきたかったのです。

[瀬戸校長]
あいにく復帰したばかりで、誰が信頼できるのかもわかりません。
しかし子どもたちの学び舎で
危険な特異を発生させるわけにもいきません。

[瀬戸校長]
事件が発生していない以上、
衛遊署にお願いするわけにもいかず、
フリーの衛遊士の方にご協力いただきたかったところ……

[瀬戸校長]
まさかあの光雅がいらしてくれるとは……。
いやあ、ほんっとうに人生何があるかわからないものですな。

[宏斗]
俺としても渡りに船だったので助かりました。
署を辞めたばかりですし、
ぜひお手伝いさせてください。

[瀬戸校長]
……あのう、もしよろしければ、
衛遊署を辞めた理由について……。

[宏斗]
……。

[瀬戸校長]
ウッすみません、プライベートなことでしたね!
失礼しました!

[宏斗]
ああいえ、気になさらないでください。
突然のことでしたし疑問に思われるのは当然だ。

[宏斗]
大した話ではありません。
自由に1から積み上げ直すために、一旦手を放したかった。
辞めた理由は本当にそんなものですよ。

[宏斗]
子どもたちをがっかりさせてしまうので、
これは内緒にしておいてほしいんですが……。

[瀬戸校長]
もちろんこの瀬戸、墓の下まで持っていく気持ちです!
なんならマントルまで突き抜けても喋りませんぞ!

[宏斗]
(地面にめり込み過ぎだ!)

[瀬戸校長]
あなたに憧れる生徒も多いんです。
素性を隠すことにはなりますが、声をかけてあげてください。
あなたの経験はヒーローとしてこれ以上ないものですから。

[宏斗]
……あ、ありがとうございます。
子どもと直接話す機会は今までありませんでしたから、
短い期間で彼らのために何が残せるか、俺なりに考えてみます。

[瀬戸校長]
って調査をお願いした側が言うセリフではなかったですね。
ハハハ……。

[宏斗]
……。

[*]
――最後は「消えた女生徒」でしたか。
いやあ~これは”あの事件”から創られた噂でしょうが。

[*]
――だから俺は、あの娘のために歌ってやったんだ。

[宏斗]
(お前はいったい、この高校で何をしたんだ。
何をするためにここまでやって来て、
何を成したんだ?)

[宏斗]
……SONICMAN。

[*]
わくわく! 有鳴青星高校パンフレット!

[*]
日本で唯一のヒーロー養成校、
私立有鳴青星高等学校へようこそ!
皆さんのために本校についてご説明します。

[*]
本校では、二つのコースを用意しています。
一つは、本校が誇るヒーロー養成コース。
特別プログラムを通じて、怪人を倒せる衛遊士になりましょう!

[*]
私たちは外部講師として第一線で戦うヒーローを招いています。
彼らの実践的な知識と経験を通じて、
成長に応じたカリキュラムのもと真のヒーローを目指します。

[*]
もう一つのコースは一般コース。
衛遊士取得を目指さない生徒たちにも、
優れた講師陣による豊かな学びが待っています。

[*]
衛遊士になりたい生徒のために、
特異の専門家になれる学習コースも用意しました。
全ての生徒が自分の道を見つけ、全力で歩むことができます。

[*]
私たちの目標は、
生徒一人ひとりが自分自身のヒーローになることです。
ご入学お待ちしております――

[宏斗]
(……俺は表向きは養成コースの外部講師として、
実際には、裏七不思議の調査のため動くことになる)

[宏斗]
(人員不足のため、突然の増員は疑問に思われない。
瀬戸校長の紹介という後ろ盾がある以上、
身元を無闇に疑われることもないだろう)

[宏斗]
(問題は……
瀬戸校長ははっきりとは言わなかったが、
裏七不思議には教師も関わっているかもしれない)

[宏斗]
(有鳴青星高校は過去に校長の更迭が起きている。
内々で済ませたらしく、詳細は教えてもらえなかったが……)

[宏斗]
(前校長派が裏七不思議に絡んでいてもおかしくない。
教師陣の中で唯一信頼できる「協力者」は、
この――)

[*]
有鳴青星高校、職員室廊下

長い髪を後ろで編み込みにした、眼鏡の女教師が立っている。

[乃宮]
ありがとうございます、生瀬さん。
はぁ~良かった!
折鶴先生が倒れてしまって、本当に困っていたんです!

[宏斗]
(乃宮ノレア先生――本年度からの新人教師だ。
教育学部で学んでいたころから、
ずっと瀬戸校長が目に掛けていたらしい)

[宏斗]
(裏七不思議の目撃された時期からしても、彼女はシロだろう。
前校長派とも関わりようがない)

[宏斗]
(……瀬戸校長が「絶対にあの子は無関係ですぞ」と
やたら熱弁していたところは、ちょっと不安だ)

[乃宮]
一般科目以外の養成コースに関わる内容は、
先日倒れられた折鶴先生のご担当だったんです。

[乃宮]
衛遊士に関わる授業には資格が必要なので、
私が代行するわけにもいかず、
資格持ちの先生は手一杯という惨状でぇ……。

[乃宮]
誰も引き受けられなかった中、手を上げてくれた。
生瀬さんはまさしくわが校の救世主なんです!
私、精一杯サポートしますから、よろしくお願いしますね!

[宏斗]
こちらこそよろしくお願いします。
といっても、授業をするのは初めてなので、
先生も比べるとかなり拙いものになりますが……。

[乃宮]
大丈夫大丈夫! ぶっちゃけ養成コース一年目の教科書って
困ってる人を助けようとか大したこと書いてませんから!
棒読み読み上げでもまったく支障はありません!

[宏斗]
(盛大にぶっちゃけたな……)

[乃宮]
本当は外部講師の方にここまで任せることはないんです。
ちょっとその、色々あって、
人手不足らしくて。

乃宮が宏斗に耳打ちする。

[乃宮]
裏七不思議のこと、調べるんですよね?
私も詳しくは知りませんが、
こちらからも手を回しますから。

[乃宮]
生瀬さんが歩き回れるよう、
クッソどうでもいい用をがんばって押し付けて、
顎でこき使いますね!

[宏斗]
た、助かります。
(ありがたいけど複雑な気持ちになる言い回しだな!?)

[乃宮]
早速ですが、まだ来たばかりですし、
校内の案内が必要ですよね?

[乃宮]
私、もう授業の準備で手一杯なので、
生徒の誰かに案内をお願いする形になるんですが――